濱田昌彦(元陸上自衛隊化学学校副校長)

 前回の寄稿では、主に新型コロナウイルスにおける自衛隊の支援について論じたが、今回は、その対応を見て感じた自衛隊の在り方を考えたい。

 私はかつて情報バラエティー番組『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)に出演したことがあるが、その番組で人気がある準レギュラーのおおたわ史絵氏の考えに注目した。彼女は内科医で、現在は法務省の非常勤医師として刑務所で受刑者たちの矯正医療にあたっている。新型コロナによる緊急事態宣言発令中の今年5月8日、自らのブログで、日本のPCR検査が増えないことについて当たり前であると指摘し、以下のように綴っていた。


 できる場所が限られている。やる医師が少ない。いや、医療を責めているわけではない。鼻粘液採取の手技をするのは医療従事者自らも感染リスクを負う。鼻粘液採取の手技をするのは医療従事者自らも感染リスクを負う。 

 そのうえで、彼女は他国で検査が進む理由として「軍医」の存在を挙げている。

 海外の検査が速やかに進むひとつの理由には軍隊の医師の存在があると思う。彼らは日常的に生物兵器に対する演習として防護服や汚染物の扱いに長けている。だから迷いが少なく、コロナにも向かっていける。日本には軍医がいない。前線で鍛えられた医師もいない。大多数の医師は防護服を着た事がない。見た事もないドクターだっていただろう。もとから世界で最も清潔な国のひとつゆえ、疫病対策には重点が置かれていなかった。そんな慣れない彼らが自衛隊の指導のもとに検査を始めている。使命感以外の何物でもない。

 このように、おおたわ氏は、日本における課題を挙げ、現場の医療従事者への感謝の念を表していたが、これを読んで「なるほど」と思った。

 私の知り合いで、防衛医科大出身の医師の中にも、イラクなどでの経験から死生観を確立した人がいる。この経験から生物兵器防護の演習や訓練を豊富にこなしているため、防護服やマスクの装着に慣れた医師は多い。

 実際、自衛隊の医官(医師免許を持つ自衛官)らが、横浜港に入港し新型コロナのクラスターが発生したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」(DP号)のほか、空港(成田や羽田)における検疫支援(PCR検査のための検体採取)など、5月末まで支援活動に取り組んだ。

 こうした現場が修羅場で、厳しいものであればあるほど、そこで活動するグループのリーダーの資質が結果を左右する。その構成員の命やけが、感染の確率にまで影響するだろう。そこで思い出すのは、私が初級幹部の時代に教えられた「指揮の要訣(ようけつ)」である。

 指揮の要訣は、指揮下部隊を確実に掌握し、明確な企図の下に適時適切な命令を与えてその行動を律し、もって指揮下部隊をしてその任務達成に邁進(まいしん)させるにある。この際、指揮下部隊に対する統制を必要最小限にし、自主裁量の余地を与えることに留意しなければならない。指揮下部隊の掌握を確実にするため、良好な統御、確実な現況の把握および実行の監督は、特に重要である。

 夜明け前からの訓練で、演習場でヘトヘトになっているときに何度も、鬼のような付教官からこれを復唱するように命じられたことがある。小隊長役を任されている際は、なおさらその言葉の一つ一つが身に染みる。
PCR検査の結果待ちの帰国者らが一時滞在するホテルで、スタッフにウイルス防護策を指導、助言する自衛隊員(右)=2020年4月、東京都新宿区(防衛省提供)
PCR検査の結果待ちの帰国者らが一時滞在するホテルで、スタッフにウイルス防護策を指導、助言する自衛隊員(右)=2020年4月、東京都新宿区(防衛省提供)
 DP号に派遣された自衛隊の幹部隊員がこれを思い出していたかどうかは分からない。しかし、防衛医大を卒業した医官も、最初は幹部候補生学校に入り、これを教わるのは間違いない。