これに対して世間の評判はあまりよいものではない。利用者が少々減ったとはいえ、人口の極めて多い首都圏で鉄道の営業を行っているのであるから、営業努力によって営業利益は確保できるのではないかという意見が代表的だ。一方で、通勤ラッシュ時の運賃が値上げされるであれば、混雑緩和に結びつくのでは、という肯定的な反応も見られる。

 英国のロンドンでは、混雑の緩和を目的とした時間帯別運賃が既に導入済みだ。地下鉄や通勤電車が共通の運賃で利用できるロンドンでは、都心部と郊外との区間を移動する際の運賃が時間帯によって変わる。

 例えば、都心部のゾーン1と郊外のゾーン9との間の運賃は通常は18ポンド80ペンス(日本円で約2534円、7月15日現在)である。一方、平日の朝6時半~9時半、16時~19時のピーク時間に利用できないオフピーク運賃は13ポンド30ペンス(同1793円)と29・3%引きだ。

 ロンドン市によると、朝の通勤ラッシュ時に市内へと向かう郊外の人たちの総数は、2010年の11万人台から、現在では12万人台に増えたこともあり、地下鉄や通勤電車の利用者数も100万人台で大きくは変わっていない。通勤ラッシュ時の運賃が高くなっていない上、定期券に相当するトラベルカードの運賃は一律で、時間帯によって変更されないからだと考えられる。

 さて、通勤ラッシュ時というくらいであるから、この時間帯は定期乗車券の利用者が大多数を占めると思われる。実を言うと、時間帯別運賃の検討の前提となる通勤ラッシュ時の採算性についてはJR東日本の前身となる国鉄時代から疑問視されてきた。

 定期運賃は通常の乗車券を購入したときの普通運賃に比べて割安な金額が設定されている。問題はその割引率で、JR東日本の場合は大手私鉄などと比べて大きいのだ。他方、鉄道会社は通勤ラッシュに備えて車両や線路、施設など多大な投資を行わなければならないものの、その金額をピーク時間帯の利用者だけでは負担できないという構造的な問題にも行き着く。

 国が公表した2017年度の統計をもとに、まずは定期運賃の割引率を比較してみよう。JR東日本の通勤定期乗車券を利用する人は平均18・9キロ乗車している。
ロンドン市内を走る列車(ゲッティイメージズ)
ロンドン市内を走る列車(ゲッティイメージズ)
 最も利用者が多いと思われる首都圏の電車特定区間での通勤定期運賃は1カ月で9220円だ。この距離の電車特定区間での普通運賃は310円(ICカード乗車券は308円)である。1日に1往復、つまり同距離を2回乗車し、1カ月間に22日間利用するとして、普通運賃は1万3640円(同1万3552円)であるから、通勤定期運賃の割引率は32・4%(同32・0%)だ。

 今求めた割引率を、大手私鉄でもあり地下鉄事業者でもある東京メトロと比べてみよう。JR東日本と同じ条件で利用すると、通勤定期運賃は8860円、普通運賃は250円(同242円)となり、割引率は19・5%(同16・8%)だ。

 東京メトロの20年3月期の同社個別の営業利益は756億円と、JR東日本に比較すると4分の1程度である。だが、東京メトロの営業距離は195・0キロとJR東日本の7401・7キロとわずか2・6%に過ぎない。営業距離1キロ当たりの営業利益を求めるまでもなく、営業利益率の高い路線ぞろいの東京メトロでさえ、JR東日本よりも通勤定期運賃の割引率を低く抑えているのだ。