田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 政府の新型コロナウイルス対策としての観光支援事業「GoToトラベル」が、トラベルならぬ「トラブル」化している。東京都で新規感染者が増加傾向にある状況を踏まえ、東京を発着とする旅行を割引対象から除外し、さらに若者や高齢者の団体旅行の自粛も求めることになった。

 「GoToトラベル」を含む「GoToキャンペーン」は旅行やイベントなどの費用補助や、飲食のポイント還元を行う需要喚起策だ。2020年度の第1次補正予算に計上されている。

 「GoToトラベル」の場合、国内旅行をすると費用の半額が補助される。1人当たり1泊2万円、日帰りは1万円を上限としている。補助相当額の7割が旅行代金の割引、3割は9月以降に実施する「地域共通クーポン」として配布される予定だ。

 当初の実施予定は8月からだったが、旅行業界からの早期実施の要請を受けて、政府が7月22日に前倒しを決めていた。「GoToキャンペーン」の予算総額は約1兆7千億円であり、新型コロナ危機で悩む旅行や飲食、イベントの各業界にとって、予算を使い切れば、かなりの経済効果がある。ただ、1次補正の際、この予算項目が入ったことに、筆者はかなり奇異な感じがした。

 なぜなら、そもそもこの「GoToキャンペーン」自体が、感染が十分に抑制された後の景気刺激策だからである。

 感染症対策の難しさは、経済活動と感染抑制がトレードオフの関係にあることだ。経済活動が活発化すればするほど、新型コロナの感染抑制が難しくなる。

 逆に感染抑制を徹底していけば、経済活動を休止しなければならなくなり、人々の生活は困窮する。経済活動と感染抑制のトレードオフの「解」をうまく見つけ出すことが、国や各自治体の課題になるが、これが難しいことは日本だけでなく、世界の状況を見ても明らかである。

 多くの国はトレードオフの「解」を見出すために、経済対策を二つのフェーズに区分している。最初の「フェーズ1」は、感染拡大期の政策であり、続く「フェーズ2」では、感染拡大が終息して景気刺激を始める段階の政策である。
会見で記者団の質問に答える自民党の二階俊博幹事長=2020年3月(春名中撮影)
会見で記者団の質問に答える自民党の二階俊博幹事長=2020年3月(春名中撮影)
 フェーズ1の政策では、経済活動を休止した個人や企業への給付金や貸付などが中心になる。経済活動を拡大するのではなく、あくまで「維持」が主な目的である。

 フェーズ2の政策の中心は、経済活動の再開や拡大を促すためのもので、消費減税や補助金交付を実施していく。今回の「GoToキャンペーン」はその意味で、典型的なフェーズ2の政策にあたる。

 しかし、この「GoToキャンペーン」が予算化されたのは、まだ感染拡大が本格化したばかりの時期だった。フェーズ1の政策の中に、特定業界の景気刺激策が先行して入ったのは、全国旅行業協会会長を務める自民党の二階俊博幹事長の影響力も大きいだろう。