田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 中国共産党政府が「発狂」している。正確に言うならば、合理的発狂である。

 その理由は簡単である。自ら拡大させた新型コロナウイルスで世界が弱っていることにつけこんで、本気で「世界秩序」を変えようとしているからだ。

 香港の「一国二制度」を完全否定した「香港国家安全維持法」(国安法)の施行、尖閣諸島や沖ノ烏島へ執拗に繰り返される侵犯行為、南シナ海での違法な軍事的占拠、他国を過剰な借金漬けにして国ごと乗っ取る「債務の罠」戦略、ウイグル族に対する強制収容や宗教弾圧など、数え上げればきりがない。国際的な政治秩序の安定化からはほど遠く、まさに現在の自由と民主の価値観を根本から否定する覇権主義のモンスターである。

 これらの行為が中国の理屈だけで世界にまかり通ると考えて実行していることが、狂気の本質である。狂った目的だが、それでも中国政府が目的を叶えるために合理的に算段している点を見逃してはならない。だからこそ「合理的狂気」なのである。

 今までも中国の発狂行為に対し、世界は見て見ぬふりをしてきた。経済面でいえば、公然の「パクリ政策」を、中国が先進国に追いつくための「キャッチアップ効果」だの、政府主導の「産業政策の成功」だの、と一部で称賛してきた。

 憐れむべき知的退廃である。本稿では、その実態を改めて示してみたい。

 結論から言えば、やっていることは単に国家主導による先進国技術のパクリである。しかも、中国のパクリ経済の全貌がはっきりとつかめない。

 最近では、ブルームバーグが「中国の攻撃でナンバーワン企業破綻か、トップ継いだのはファーウェイ」で、パクリの実態に注目している。記事では、カナダを代表する世界的通信機器メーカー「ノーテル・ネットワークス」が、21世紀初めから、中国政府からと思われるサイバー攻撃を受け、顧客情報や重要な技術を盗まれたという。

 ノーテルは、このサイバー攻撃にあまりに無防備で対策も緩かったために、悲惨な道をたどる。ノーテルは技術的優位、とりわけ人的資源とマーケットを、中国政府の巨額の支援を受けた華為技術(ファーウェイ)に奪取されたのである。結局、ノーテルは2009年に破綻してしまった。
中国空軍の航空大学を視察する習近平国家主席(右端)=2020年7月23日、中国吉林省長春市(新華社=共同)
中国空軍の航空大学を視察する習近平国家主席(右端)=2020年7月23日、中国吉林省長春市(新華社=共同)
 ファーウェイは元中国人民解放軍エンジニアの任正非(にん・せいひ)氏が創立した会社であることは広く知られている。識者の中には、ファーウェイと中国政府は必ずしも協調しておらず、むしろ対立していると指摘する人もいる。頭の片隅ぐらいには入れておいてもいいかもしれないが、正直役には立たない。

 そんなことよりも、人民解放軍のサイバー攻撃隊が産業スパイの世界で君臨しているが、中にはイスラエルや北朝鮮が中国のサイバー攻撃をパクって、中国のふりをして攻撃している、とでも指摘した方が役に立つだろう(参照:吉野次郎『サイバーアンダーグランド』日経BP)。中国政府や人民解放軍、その系列企業に対する生ぬるい考えは捨てた方が無難だ。