…でも、そんなことをしても意味はない。この人たちがそんなことで改心するはずもない。するならとっくにしてるはず。訴えかける先はこの人たちではない。政治家や国家公務員を動かすことができるのは世論の力だ。だから世の中の皆さんに訴えよう。トッちゃんと私の身に起きたことを。政府、財務省、近畿財務局がいったい何をしてきたかを。

 私の夫、トッちゃんは二度と返ってこない。でも私の人生は続く。真相がわからないままでは私は人生をリセットできない。トッちゃんはなぜ追い詰められたの? 改ざんはなぜ行われたの? 国有地の値引き売却がそもそもおかしかったんじゃないの? なぜそんな値引きをしたの?

 公正な第三者の手で再調査をしてもらおう。そして納得のいく説明をしてもらおう。それが私の願いだ。世論に訴え、世論を動かし、真相を解明するんだ。その時、トッちゃんは言ってくれるだろう。

 「ようやったなあ、まあちん。ありがとう」
 …「まあちん」は、私、雅子の、トッちゃん風の呼び名だ。

事件は終わっていない

 ここまで「私」と名乗って登場しているのは、森友事件で公文書の改ざんを強いられ命を絶った、財務省近畿財務局の赤木俊夫さん(享年五十四)の妻、赤木雅子さんである。ここからは、雅子さんとともにこの本を書いた相澤冬樹が、通常とはかなり異なるこの本の流れと、物語の舞台となった森友学園への国有地値引きと公文書改ざんについて、あらかじめご説明しておきたい。

 赤木俊夫さんは、世を騒がせた森友事件の公文書改ざんを上司に強要され、自ら命を絶った。二〇一八年三月七日のことだ。彼が何かを書き残したようだという話は当時からあった。しかし厳しい情報統制が敷かれて内容は闇に隠れたまま世間から忘れられていった。

 ところが実は、彼の自宅のパソコンには「手記」と題した詳細な文書が残されていたのだ。A4で、七枚。そこには、近畿財務局で密かに行われた驚くべき出来事が克明につづられていた(手記の全文は巻末に収録)。

 俊夫さんが命を絶つ原因となった「森友学園への国有地売却問題」が明るみに出たのは、二〇一七年(平成二十九年)二月八日のこと。この国有地だけ売却価格が明らかにされないことを不審に思った地元・大阪府豊中市の木村真市議が、情報公開を求め裁判を起こしたのがきっかけだった。この国有地には森友学園の新設小学校が建つ予定で、その名誉校長には、安倍晋三首相の妻、昭恵さんが就任していた。
学校法人森友学園が建設していた「瑞穂の国記念小学院」=2017年2月、大阪府豊中市
学校法人森友学園が建設していた「瑞穂の国記念小学院」=2017年2月、大阪府豊中市
 翌日、朝日新聞がこの問題を大きく報じたことで国会で火が付いた。野党の追及に財務省は、鑑定価格九億円余の土地を八億円以上値引きして売却した事実を明かした。