2020年07月28日 12:11 公開

バーバラ・プレットアッシャー米国務省担当特派員

ドナルド・トランプ米政権がこのところ、中国政府との対決姿勢を強めている。先週にはテキサス州ヒューストンの中国総領事館に対し、経済スパイ活動に関わったとして閉鎖を命じた。

この閉鎖命令により、世界の2大経済大国の「負のスパイラル」は一段と悪化。米中関係は過去数十年間で最悪レベルに陥っている。

対決の背景と影響を考えてみる。

どれほど深刻?

アメリカが外国政府公館の閉鎖を命じるのは、これが初めてではない。しかし、まれにしか取られない劇的な措置だ。

今回の命令の対象は総領事館で、政策に関わる大使館ではない。ただし、総領事館は通商と外交の面で重要な役割を果たしている。

この命令を受け、中国政府は報復措置に出た。中国西部の四川省成都市にあるアメリカ総領事館の閉鎖を命じたのだ。米中両国の対話のための外交インフラは、さらなる打撃を被った。

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ここ数カ月、ビザ(査証)制限や外交官の渡航をめぐる新ルールの導入、特派員の追放などで、米中関係は悪化していた。だが今回の閉鎖命令は、おそらくそのどれよりも深刻な措置と言えるだろう。

報復合戦は双方によって繰り広げられている。ただ、今回の対決は、主にアメリカが引き起こしたものだ。

ここまでの経緯

トランプ政権の高官はヒューストンの中国総領事館について、経済スパイ活動と自国の影響を及ぼす戦略の点から、中国のすべての公館の中でも「最も甚だしい違反者」と呼ぶ。

外国公館によるスパイ行為は、ある程度あらかじめ想定されている。しかし、ヒューストンの総領事館は許容範囲を大幅に超えていた。そのため、容認できないとの強いメッセージを送る必要があったと、米高官は話す。

中国を相手に、より「断固とした対応」を取り、同国の作戦を「妨害する」というアメリカ側の決定は、米連邦捜査局(FBI)のクリストファー・レイ長官による今月の演説内容と一致する。レイ氏は、アメリカの国益にとって中国の脅威が、過去10年で非常に大きくなっていると主張。中国が絡んだスパイ活動に関する捜査を、10時間ごとに新たに開始していると述べた。

中国政府は、こうした批判は当たらないと常に反論してきた。ヒューストン総領事館の件については、「悪意ある中傷」だと反発している。


トランプ政権に批判的な人は、総領事館閉鎖の意味とタイミングについて、懐疑的だ。「目くらましの感じがする」と述べるのは、バラク・オバマ政権で国務省のアジア部門トップだったダニー・ラッセル氏だ。11月の大統領選挙を前に、トランプ氏が現在抱えている政治的な厄介事から人の目をそらそうとする狙いも、少しはあっただろうという意見だ。

大統領選がらみなのか?

答えはイエスでありノーでもある。

「イエス」なのは、トランプ氏が反中国のメッセージ発信を、最近になって始めたからだ。彼の戦略家が有権者に響くと考えているこのメッセージは、トランプ氏が2016年、中国について「アメリカを略奪している」と批判した、国粋主義的な発言に沿うものだ。

ただそれに加え、中国政府の新型コロナウイルス対応への非難も、かなり込められている。トランプ氏は新型ウイルスの対応が批判され、支持率が落ちている。それだけに、惨状の責任は中国にあり、自分にはないと発信しようとしている。

一方、「ノー」と言えるのは、マイク・ポンペオ国務長官ら政権内の強硬派が、しばらく前から中国政府に対して厳しい措置を示して圧力をかけてきたからだ。トランプ氏は、強硬手段を取るべきとの助言と、中国との通商を推進し、習近平国家主席との「友情」を深めたいという自らの願望の間で揺れてきた。

だが、中国総領事館を閉鎖させたことは、対中国強硬派が現時点では優勢となっていることをうかがわせる。米政府内では、世界規模の大災害となった新型ウイルスに関して、中国政府が情報を十分に公開していないとして不満が募っており、それも強硬派に力を与えたとみられる。

米中関係はどうなる

現状はかなりまずい。1972年にリチャード・ニクソン大統領(当時)が中国共産党との関係正常化に動いて以降、最悪の状態だ。その責任は両国にある。

習氏が2013年に国家主席に就任し、前任者たちよりずっと積極的で権威主義的な方法を取るようになってから、現在の傾向がみられるようになった。中国は、厳格な香港国家安全維持法の制定と、新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒少数派の弾圧によって、アメリカとの緊張を一段と高めた。それを受け、アメリカは制裁措置を発動している。

中国政府と、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」の自国第一主義との衝突は、ポンペオ氏の中国に関する最近のスピーチにみられるイデオロギー的な世界観が、その形をいっそうはっきり示している。ポンペオ氏は冷戦時代を思わせる表現で、中国指導者層について、世界の覇権を求める暴君だと非難。米中の対決は、自由と圧政の間の、生存をかけた戦いだと訴えた。

中国政府の関係者の多くは、トランプ政権の目的について、中国が経済力でアメリカに追いつくのを防ぐことだと考えている。そして、中国の通信技術の利用を阻止しようとする動きに対して、特に怒っている。

しかし、懲罰的措置のエスカレートには、懸念と困惑もみられる。中国の王毅外交部長は最近、アメリカに対し、一歩引いて両国が協力できる部分を探るよう願い出ている。

どこ向かう?

短期的には、不安定な緊張状態が米大統領選までは続くと考えられる。中国が状況悪化を望んでいるとは思われない。また、トランプ氏も深刻な対決を求めていないし、軍事的な衝突はもちろん望んでいないと、専門家の見方は一致している。

だが、現在はアジア・ソサエティ・ポリシー・インスティテュートの副代表を務めるラッセル氏は、予想外の衝突に対する注意が必要だと述べる。「米中関係においてバッファー(緩衝材)としてこれまで機能してきた、ゴールはエスカレートを緩め問題を解決することにあるという前提は(中略)なくなってしまった」。

長期的には、11月の大統領選で誰が勝つのかによって変わる。ただ、民主党候補のジョー・バイデン前副大統領の方が協調ルート復活に前向きだろうが、そのバイデン氏でさえ今は対中強硬姿勢を強調して選挙運動を展開している。中国への強硬姿勢は、大統領が誰かを問わず、超党派でまとまっているごく異例の合意を反映した、大衆受けするテーマだからだ。

保守系の米シンクタンク、ヘリテージ財団の国家安全保障問題の専門家ジム・キャラファノ氏は、中国による「かく乱」行為に対抗することは、状況悪化ではなく、安定化につながると主張する。「これまでアメリカは、中国がどの分野でアメリカの国益を侵しているのかを明確にせず、中国はそのまま続行してきた」とBBCに述べた。

しかし、共和党の政治家で、民主党のビル・クリントン政権で国防長官を務めたウィリアム・コーエン氏は、米政界全体が中国を敵視しているのは危険なことだと考えている。

中国が軍事、経済、テクノロジー分野で勢力を拡大したことで、アメリカは「これまでのようにはビジネスができない」と中国に言うはめになったと、コーエン氏は指摘した上でこう述べる。

「それでも私たちはビジネスをしなくてはならない」

(英語記事 Why US-China relations have reached a low