梅原淳(鉄道ジャーナリスト)

 品川-名古屋を結ぶJR東海の「リニア中央新幹線」の建設をめぐり、静岡県とJR東海の対立は収まる気配を見せない。

 両者の主張が平行線のままなのは、リニア中央新幹線が通る南アルプストンネルの掘削によって水量が減るとみられる大井川にどのくらいの水を戻すかにある。静岡県はトンネルに流れる湧き水全量を戻すべきだと主張し、JR東海は静岡県内の区間の湧き水であれば戻すと言っているのだ。

 一見すると、両者の言い分は同じように見えるので、対立の舞台である南アルプストンネルについて説明しておこう。長さ25・0キロの南アルプストンネルは全区間で静岡県を通っているのではない。品川駅側の入口から6・6キロは山梨県の区間、名古屋駅側の入口から7・7キロは長野県の区間であり、真ん中の10・8キロが静岡県の区間となっているのだ。

 通常、山岳トンネルの構造は、山中からトンネルに流れた湧き水は両端の入口に流れていく。南アルプストンネルへの湧き水も、そのままであれば山梨県か長野県に向かい、本来は大井川に流れていたはずの水が失われてしまう。

 問題の解決を困難にしている要因はいくつか存在する。大別すると、自然に起因するもの、そしてJR東海という企業の体質に起因するものがある。

 自然に起因するものとしてまず挙げられるのは、大井川と南アルプストンネルの位置関係だ。

 大井川は南アルプストンネルが貫く山の上に位置するので、トンネルを掘削することによって大井川の水がトンネル内に大量に流れてしまう。そうかといって、リニア中央新幹線のルートを大井川の上、つまり橋梁で通過させるのも、坂があまりにも急になりすぎてリニア中央新幹線の車両が高速で走行するのに支障をきたす。
リニア中央新幹線の工事予定地への林道を視察後、取材に応じる静岡県の川勝平太知事=2020年7月21日、静岡市
リニア中央新幹線の工事予定地への林道を視察後、取材に応じる静岡県の川勝平太知事=2020年7月21日、静岡市
 もう一つは南アルプストンネルが長大であるため、仮に静岡県内の区間だけであってもトンネル内への湧き水のすべてを大井川に戻すことは現実的には難しいという点だ。

 南アルプストンネルから大井川に湧き水を送るため、JR東海は導水路トンネルを掘るという。導水路トンネルへと自然に流れる水量は毎秒1・3立方メートルで、静岡県内の区間への湧き水全体の量と目される毎秒2・67立方メートルの半分程度にとどまる。

 南アルプストンネルには傾斜があるため、導水路トンネルとの接続地点よりも下に位置する区間で、湧き水は当然のことながら導水路トンネルへは流れないからだ。となると、南アルプストンネル内全ての湧き水を、坂の上にある導水路トンネルへと汲み上げることはまず不可能と言ってよい。