2020年08月05日 18:15 公開


中国西部の新疆ウイグル自治区にある、ウイグル族などを収容する施設の内部を撮影した極めて貴重な映像を、BBCのジョン・サドワース記者が入手した。同記者が報告する。

撮影したのは、マーダン・ギャパーさん(31)。新疆芸術学院でダンスを学んだ後の2009年、豊かな生活を求めて新疆ウイグル自治区を出た。中国の大規模オンラインショップ淘宝(タオバオ)のモデルになり、多額の報酬を得ていた。

モデル時代の華やかな姿とは大きく異なり、ギャパーさんの自撮り動画には、薄汚れた壁に囲まれ、窓には鉄格子がつけられた部屋で、汚れた服を着た彼の姿が写っている。

足首は腫れ上がり、左手首にはめられた手錠は、唯一の家具であるベッドの鉄フレームにつながれている。

この4分38秒にわたる映像と、ギャパーさんの多数のメールは、新疆ウイグル自治区で中国政府が進める「3つの悪(分離主義、テロリズム、過激主義)」との闘いがどのようなものかを示す新たな証拠だ。

帰郷して手続きするよう指示

広東省仏山市でモデルの仕事をして暮らしていたギャパーさんは、2018年8月に大麻を販売したとして逮捕され、1年4カ月の刑が言い渡された。彼の友人は、容疑はでっち上げだったと主張する。

ギャパーさんは2019年11月に刑務所を出たが、1カ月もたたないうちに警官が尋ねて来て、新疆ウイグル自治区に戻って型どおりの手続きをする必要があると言われた。当局の関連書類には、「地元で数日間の教育を受ける必要があるかもしれない」と書いてあった。



今年1月15日、ギャパーさんは当局の2人付き添われ、仏山市から新疆ウイグル自治区クチャ市に飛行機で移送された。家族は再教育施設に入れられたと考えた。

その1カ月後、家族のもとにギャパーさんから連絡があった。彼は何らかの方法で、携帯電話を使えるようになっていた。

新型ウイルス感染リスクも

信頼できる推定によると、過去数年間で100万人超のウイグル族と他の少数民族が、新疆ウイグル自治区にある収容施設に入所させられている。中国は高度に警備されたこの施設について、反過激主義の教育を目的とした、自主的に入る学校だとしている

最近の調査では、何千人もの子どもが親から引き離されている。また、女性には避妊手術が強制されている



中国は「再教育施設」のほとんどは閉鎖されたとしているが、ギャパーさんの報告は、ウイグル族が今も大規模に拘束されている様子を示している。

また、新型コロナウイルスの感染が新疆ウイグル自治区でも急増している状況で、入所者たちは不衛生で高密度の環境に置かれ、深刻な感染リスクに直面していることも表している。

BBCは中国外務省と新疆ウイグル自治区の当局にコメントを求めたが、ともに返事はなかった。

「ここで死にたくない」

ギャパーさんが中国のメッセージアプリ微信(ウィーチャット)を使って収容施設から送ったメッセージには、おぞましい状況が記されていた。

「50平方メートルもない狭い部屋に50~60人が拘束されていた。男性は右側、女性は左側にいた」

「全員、『フォー(4)ピース』と呼ばれるものを身に着けていた。頭にかぶる黒い袋、手錠、足かせ、手錠と足かせをつなぐ鉄チェーンだ」

ギャパーさんもそれを着用するよう命じられた。

「私は頭の袋を取り、警官に手錠がきつくて手首が痛いと言った」

「彼は怒りをあらわにし、『今度フードを取ったら殴り殺してやる』と言った。それ以降、話をしようとは思わなくなった」

「ここでは絶対に死にたくない」



ギャパーさんは、叫び声がどこかから絶えず聞こえてくるとし、「尋問室」があるようだと記している。

また、入所者は全員でプラスチック製のボールとスプーンを共用し、シラミに悩まされているとするなど、不衛生な環境についても書いている。

全員がマスクを着用

中国が新型ウイルス流行の危機を迎えていた1月22日、全国的な対策が取られていることが、収容施設にも伝わってきた。

施設内では警官が全入所者にマスクを着用させた。ただ、相変わらず混雑した部屋で、頭にはフードをかぶらなくてはならなかった。

あるとき、職員が入所者の検温をすると、ギャパーさんを含め数人の体温が摂氏37度を超えていた。彼は上階の部屋に移された。そこでは拷問の音がさらにはっきり聞こえたという。

「男の人が朝から晩まで叫び声を上げていたこともあった」

数日後、入所者は小型バスでどこかに移送された。かぜをひいて鼻水が出ていたギャパーさんは、別の施設に移された。彼が「感染流行管理センター」と呼ぶその施設の部屋で、今回の動画を自撮りした。室内では手錠でベッドにつながれた。

「体中シラミだらけだ。毎日捕まえて体から取り除いている。とてもかゆい」

「もちろん、みんなといた警察署よりこっちのほうが環境はいい。ここでは1人だ。ただ、2人に監視されている」


ギャパーさんは施設を移ったとき、私物へのアクセスが認められたと思われる。携帯電話も職員に気づかれなかったようだ。彼は警察の施設で18日過ごした後、突然、外界への連絡が可能になった。

ギャパーさんからの連絡は数日間続いた。しかし突然、メッセージは途絶えた。

それ以来、ギャパーさんから音沙汰はまったくない。当局は彼の所在や、拘束を続けている理由について、何の説明もしていない。


13歳に降伏求める文書

メッセージが本当にギャパーさんの送ったものか、判定するのは不可能だ。ただ専門家は、動画の背景で聞こえる政治宣伝の言葉から、本物だとみられると言う。

動画からは、「新疆が東トルキスタンだったことは1度もない」などと、ウイグル語と中国語でメッセージが放送されているのが聞こえる。

また、新疆ウイグル自治区に移送された方法や、施設の状況などが、これまで施設について確認された記録と合致している。そのことからも本物である可性能が高いと、中国政治に詳しい米ジョージタウン大学のジェイムズ・ミルワード教授は話す。

ギャパーさんが送信したものの中には、「感染流行管理センター」の床で見つけた文書の写真もある。地域の共産党幹部の演説が書かれており、わずか13歳の子どもにも「間違いを悔い、自発的に降伏する」よう求める内容だった。



ウイグル族について研究している米コロラド大学のダレン・バイラー博士は、「宗教的な活動に関して未成年に責任を取らせるとした公式文書を見るのはこれが初めてだと思う」と話す。

「息ができない」

ギャパーさんの家族には5カ月前から、彼のメールが届かなくなった。今回、映像を公表することで、彼に圧力や罰が加えられる恐れがあることは認識している。

しかし、ギャパーさんとウイグル族の苦難を明らかにすることで、アメリカで警官の暴行によって死亡したジョージ・フロイドさんの映像が反人種差別の抗議デモを引き起こしたのと同様、世論を動かせるのではないか――。オランダで暮らすギャパーさんのおじ、アブダルハキム・ギャパーさんは、そう考えている。

「(マーダン・ギャパーさんとフロイドさんは)どちらも人種を理由に虐待された」、「アメリカでは人々が声を上げたが、私たちの場合は沈黙が続いている」。

「ウイグル族全体がジョージ・フロイドさんのようだ」、「息ができない」。



アブダルハキムさんは、ギャパーさんが拘束される前、彼とよく連絡を取っていた。そうした外国とのコネクションが、ギャパーさんの拘束につながったのは「100%間違いない」と話す。

アブダルハキムさんは、2009年から新疆ウイグル自治区で政治ビラを配るなどの活動をしてきた。中国当局に逮捕されそうだと知り、国外に脱出した。政治活動は平和的で、おいのギャパーさんはまったく関わっていなかったと、アブダルハキムさんは言う。

BBCは中国当局に、ギャパーさんとアブダルハキムさんが中国で犯罪に関わった疑いがあるのかを質問した。

また、ギャパーさんがベッドにチェーンでつながれた理由や、その他の不当な扱いや拷問の訴えについても、コメントを求めた。

中国当局から回答はなかった。

(英語記事 Uighur model sends rare video from Chinese detention