これは終戦まで3カ月の出来事である。そして、終戦までおよそ2カ月となった昭和20年6月2日にも驚くべき大戦果を挙げている。

 敵は、空母「シャングリラ」の戦闘機F4Uコルセア隊で、九州南部の知覧・出水の特攻基地を攻撃に来たときの空戦だった。このとき「剣部隊」は、あっという間に敵機18機を撃墜し、わが方の損害は2機という圧勝だったのである。

 総撃墜数43機を数える元407飛行隊のエース本田稔少尉は、このときの様子をこう記している。

 各小隊は格好の目標を定め、高度千、五百、百と近づき、いっせいに二十ミリ機銃を発射して完全な奇襲をかけ、F4Uを片っ端から撃墜してしまった。この時三〇一飛行隊は上空警戒に当たっており、我々の攻撃を見ていたが、その前方にさらにF4U八機がゆうゆうと飛行しているのを発見してこれを奇襲し、その五機を墜としたのである。この日、わが方は二機の未帰還機があったが、十八機にのぼる敵艦載機を撃墜した。


 6月2日の空戦は「剣部隊」の大勝利だった。

 では、米軍はどのように見ていたのだろうか。米海軍第38機動部隊指揮官ジョン・S・マッケーン中将から各空母航空隊司令宛てに機密の電信通達が発信された。

 全搭乗員に徹底せよ。最近九州南部上空において、経験を積み熟練した敵戦闘機隊に遭遇した。ジョージ、零戦、疾風、雷電あるいはトニー(飛燕または五式戦)とも識別される最新型の高性能機を装備し、とくに対空母機戦闘の訓練を積み、疑いなくレーダー官制下の迎撃態勢にある。この型の飛行機は、場合によりコルセアに匹敵する高速の上昇力を持つと認められる。この戦闘機隊は、緊密な二機および四機編隊、果敢な攻撃性、連携のとれた攻撃性を特徴とする。この練度の高いアクロバットチームと交戦した我が軍パイロット、殊に特攻機あるいは爆撃機を相手に容易な撃墜に慣れ、自信過剰となり警戒心をおろそかにした搭乗員はショックを受けている。


93式中間練習機の前で記念撮影する海軍の練習生たち。後列中央が第343海軍航空隊(通称・剣部隊)の一員だった本田稔元少尉
93式中間練習機の前で記念撮影する
海軍の練習生たち。後列中央が
第343海軍航空隊(通称・剣部隊)の
一員だった本田稔元少尉
 こうして昭和20年3月19日の初陣から終戦までに343航空隊「剣部隊」が挙げた撃墜戦果は、B29爆撃機を含む170機にも上ったのである。

 かつて本田稔氏に、最も印象に残る戦いについて聞いてみたところ、本田氏は目を瞑りながらこう言うのだった。

 「…あれだけは忘れられんのです。攻撃を終えて帰っていく敵機を後ろから撃って撃墜してしまったんですよ…」