吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表)


 今秋の米大統領選の民主党候補、バイデン氏は8月11日、ハリス上院議員を副大統領候補に指名した。初の黒人女性副大統領候補であることについては画期的である。母はインド移民の生物学者で、父はジャマイカ移民(黒人)の経済学者だ。ハリス氏は、カリフォルニア州検事総長などを経て2017年から上院議員となり、現在55歳。

 バイデン氏がハリス氏を副大統領候補にした背景には、彼が得意としトランプ氏が苦手とする黒人票と女性票を固めたい意向があるのだろう。特に4年前と同様に重要な激戦州で意外にもバイデン氏の支持が盤石でないことが重視されたようだ。

 だが、ハリス氏は昨年の民主党大統領候補選びに参戦していた際の実績などを考慮すると、それほど黒人の支持は高くない。強いて言えば、「女性」だから女性にアピールすることが期待される程度だろう。

 いずれにしてもハリス氏は副大統領候補に決まったばかりで、バイデン氏にとってどれほど効果があるか分からない。むしろ、米国ではミネソタ州ミネアポリスで起きた警察官による黒人暴行死事件の余波が根強いだけに、米国における黒人の政治支持構造を分析する方が重要ではないだろうか。そう考えると、別の注目すべき人物の存在が浮かび上がってくる。

 米国の建国記念日である7月4日、カニエ・ウェストという黒人が無所属での大統領選への立候補を表明した。ウェスト氏はミュージシャンであり、人気ラッパーとして知られる。これまでにも大統領選への出馬をほのめかすなどしていたが、何度も立ち消えになっていた。

 しかし、今回はこれまでと少々違う。今回は米電気自動車メーカー、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)がウェスト氏の支持を明らかにするなど、それなりの有力者を巻き込んでいるのだ。

 そもそも、米国の大統領選は各州に候補者登録をしなければならない。人口が多い重要州のテキサスを含むいくつかは、すでに候補者登録を打ち切った後だ。そのため540人の代議員のうち、それらの州に割り当てられた225人を確保できない状況だ。

 だが、ウェスト氏は、オクラホマでは候補者登録ができた。他にも候補者登録を締め切っていない州で登録を目指しており、勝敗を分ける激戦州のウィスコンシンとオハイオ、そして超大票田のカリフォルニアなどでも候補者登録に挑戦。8月初旬時点で代議員88人分の州に候補者登録できているとされる。
ハリス上院議員=2019年1月、米カリフォルニア州(ロイター=共同)
ハリス上院議員=2019年1月、米カリフォルニア州(ロイター=共同)
 一方、ウィスコンシン、イリノイ、ニュージャージーなどでは候補者登録に必要な署名を集めて提出したものの、州の選挙管理委員会が内容を精査した結果、不備が多く登録はされないようだ。オハイオ、カリフォルニアなどでも同様の状態になれば、(あり得ないが)候補者登録ができた全ての州で勝ったとしても代議員の過半数271人に到達せず、選挙に出ていること自体が全くの「冷やかし」になる。

 だが、候補者登録に州民の署名が必要ないバーモントやコロラドなど、12を超える州の候補者登録申請は8月中旬だ。ウェスト氏は最後まであきらめないかもしれない。署名集めも有力な業者に依頼している。