つまり、ウェスト氏は今回、かなり本気なようなのだ。ウェスト氏は黒人ながらトランプ氏の強い支持者だった。実際、立候補表明してから、妊娠中絶反対など共和党的政策を主張している。宗教にも熱心である。

 彼は立候補を表明したとき、トランプ氏への支持を捨てたと言った。だが、同時に「黒人の側にも自助努力が足りなかったのではないか?」、「民主党の黒人過保護政策が、黒人をダメにしてしまっていないか?」という趣旨の発言も繰り返している。

 もちろんバイデン氏の「自分に投票しない黒人は黒人ではない」という発言にも激怒している。同じようなことをFОXテレビの黒人女性キャスターであるキャンディス・オーウェンズ氏が、しばしば主張していて、それも米国社会に影響を与えている。

 実際、民主党は、米国の4100万人の黒人すべてに対し、南北戦争以前の奴隷制度の謝罪として、莫大な賠償金を払う決議をしようとしている。これは南北戦争以前の奴隷の子孫だった黒人に対する過保護政策との批判もある。

 しかもこれを実現した場合、6兆ドル以上が必要になる。このような過保護政策が真に米国の黒人のためになるのかも疑問だ。 実際、7月中旬に実施されたワシントンポストとABCの合同世論調査では、回答者の63%が反対。黒人回答者の82%が賛成だったが、白人の賛成は18%にとどまっている。

 前後関係その他から見ても、ウェスト氏の立候補表明は、バイデン氏を支持する黒人票を割り、バイデン氏を落選させるための作戦である可能性もある。前記のようにいくつもの州で立候補届出ができなかったのは事実で、無所属候補が各州で二大政党の候補より多くの票を獲得して代議員を得た例はないと言ってよい。だが、地方の州だけでも彼が本気で選挙運動を行えば、バイデン氏の黒人票が割れトランプ氏に有利になる。

 ちなみにウェスト氏に依頼されて署名集めを行っている専門業者は、共和党系の業者だ。いくつもの州で共和党関係者がウェスト氏を支援していることが確認されている。現に、オハイオに提出されたウェスト氏の大統領選代議員10人中6人が共和党関係者だった。

 トランプ政権は関係を否定しているが、実はウェスト氏に紹介した可能性もある。バイデン氏の黒人票を割るためなのか、あるいはウェスト氏の本気度に動かされたのか。

 ただ、ウェスト氏はメンタル面に問題があるとされ、今回の立候補も本気ではないとの声も多い。実際に署名を集めて立候補届出をして却下された州では、メンタル面の問題を指摘する声が出たため、精査が行われた州もある。
カニエ・ウェスト氏=2019年11月、米ニューヨーク(AP=共同)
カニエ・ウェスト氏=2019年11月、米ニューヨーク(AP=共同)
 指摘したのは、もちろん民主党関係者である。だが、彼は宗教活動に熱心で共和党的な発言が多いだけに、トランプ氏の票が割れるという見方もある。また、彼が多くの若者に愛されるスターであることは大きい。