このように実は底堅いトランプ氏に対する黒人の支持を、ハリス氏を副大統領候補にしたからといって、バイデン氏は打破できるだろうか。

 より深い問題がある。米国の黒人の1、2割が、南北戦争以前の奴隷の子孫ではなく、アフリカ大陸などから60年代以降に移民として来た人々だ。その人々の多くは、努力して働いて子供を良い学校に行かせ、比較的エリートとして生活をしている。オバマ氏も、そしてハリス氏も、その典型だろう。

 そこまで行かなくとも今回の黒人暴動で、仲間の暴力的行動を抑止した黒人も少なくない。そのような人々が抗議デモで、どのようなプラカードを掲げていたかと言えば「学費無償化」といった建設的で実現不可能とは言えない主張が多い。その人々が、カレッジぐらいは卒業していたであろうことは、想像に難くない。
 
 このような人々の代表がウェスト氏だと考えてもよいのではないだろうか。つまり、今の米国では黒人の間でも、エリートと非エリートと中間層の違いが拡大しているのである。

 こうした分裂現象は、黒人だけではない。ユダヤ系も従来型のリベラルが8割、宗教熱心な保守系が2割。前者が反トランプ、後者が親トランプなことは、言うまでもない。ヒスパニック系もキューバから来た人の子孫は反共産政権の立場から共和党支持、他は民主党支持だが、二世、三世以降で米国社会に溶け込み努力し裕福になった人は共和党支持も多い。

 また、共和党は今、民主党とは違う医療費の透明性向上改革を断行中であり、これはオバマケア以上に医療費を下げられるのではないかとされ、特に女性の高い支持を得ている。トランプ氏が女性有権者に弱いとされているが、今後どうなるかは分からない。

 さらに、今年の米国国勢調査の中間報告によると、10代の米国人は、ついに白人が過半数を割った。それよりも重要なことは10代よりも70歳前後の、いわゆる団塊の世代の方が人口に占める割合が増加する趨勢にあることだろう。

 米国でも合計特殊出生率は、08年のリーマン・ショック後には少なくとも白人では1・7%と日本と大差がない。また、黒人やヒスパニックの人口増加率も次第に頭打ちになってきている。こうなると、当然若者よりも70歳前後の意見の方が社会の中心になる。これは、4年前や今年の、大統領候補の高年齢を考えれば分かるであろう。

 これまで述べてきたように、大統領候補としてのウェスト氏は、話題性はあるとしても、考慮しなければならない存在とは言えない。彼は実際には候補者登録不備などの理由で大統領選に立候補できない可能性もある。

 奇跡が起きて彼が大統領になったところで、米国を再統一することは無理だろう。それは、ハリス氏が副大統領候補になったことでバイデン氏の名の下に米国民が糾合することが、選挙前後に一時的にあったとしても同じなのだ。
米デラウェア州で演説するバイデン前副大統領(左)とハリス上院議員=2020年8月12日、(ロイター=共同)
米デラウェア州で演説するバイデン前副大統領(左)とハリス上院議員=2020年8月12日、(ロイター=共同)
 それくらい米国の社会は人種、年齢その他の問題で、今まで以上に分断されているのだ。この点を理解しなければ今後の日米関係を望ましい形で維持することは難しいだろう。