2020年08月15日 11:26 公開

米大統領選でカマラ・ハリス上院議員が野党・民主党の副大統領候補になると決まったことで、アメリカがいま必要としている変化が実現するかもしれないと、米パーデュー大学のナディア・E・ブラウン准教授(政治学、アフリカ系アメリカ人研究)は予想する(文中敬称略)。


カリフォルニア州選出のカマラ・ハリス上院議員が、ジョー・バイデン前副大統領と共にホワイトハウスを目指す副大統領候補に選ばれた。この政治的瞬間がどういうものか、見ておく必要がある。

政治的な時代背景は変化した。今は普通のアメリカ人が、制度化された人種差別や、ジェンダーを理由とした暴力について話し合っている時代だ。

白人と同じように黒人の命も大事なのだと主張する「Black Lives Matter」運動は今回、ジョージ・フロイドの暴行死に抗議して、あるいは自宅で警察に射殺されたブリオナ・テイラーのために正義を求めて、持続的な勢いとなった。この運動の盛り上がりを前に、多くのアメリカ人が警察や正義や人種平等について、従来の考えを改めるようになった。

黒人のアメリカ人活動家、タラナ・バークが10年以上前に始めた「MeToo(私も)」運動は、この国の社会の隅にいる女性や少女が受けている性的加害に世間の目をひきつけるためのものだった。それが全国的なスポットライトを浴びるようになったのは、このフレーズを白人女性が取り入れ、性的加害や嫌がらせや暴力を受けてきた自分たちの経験を語るために使ったからだ。

これに加えて、新型ウイルスのパンデミック(世界的流行)の渦中にあって、連邦政府が感染拡大を防ぐための指導力を発揮できなかったせいで、ほんの数カ月前まであえて無視されていたしつこい人種格差が、あらためて浮き彫りになった。

新型ウイルスは人口比などにまったく不均衡なほど、ことさら黒人女性に打撃を与えている。パンデミックが引き起こした景気後退のため、黒人女性の雇用は脅かされ、経済格差を悪化させている。

加えて、パンデミックに関連してアジア人差別など、人種差別に起因する攻撃が頻発している。

こうした状況を背景に、カマラ・ハリス上院議員が副大統領候補となったわけだ。

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人間社会はもう長いこと、腐敗した(男性)政治家がもたらす混乱を上手に整理するのは、清廉潔白な女性の闘士だと、そういうイメージを抱いてきた。アメリカの女性参政権100年を祝っている今年、なぜ女性に投票権を与えるべきかという当時の論調は、少し気味が悪いほど今でもなじみがある。

ジェンダーのステレオタイプを通じて、女性は男性に比べて腐敗していないという(間違った)固定概念がある。

それゆえに、トランプ政権が国内の一部でどう見られているかを踏まえれば、バイデンにとって女性を副大統領候補に選ぶのは、論理的な選択だった。

カマラ・ハリスの選択は、女性大統領に対する待望論を反映したものでもある。ただし、アメリカの有権者は大統領選の予備選では(ハリス議員を含めて)女性候補を特に支持しなかったのだが。

ハリス議員その人についても注目すべき点はたくさんあるが、それよりも時代がここまで至った複数の要因をもっと検討する必要がある。彼女が歴史的な副大統領候補になったその文脈を見ることで、バイデンによる選択が象徴的だというだけでなく、内容を伴うものだったことが分かってくる。

象徴的だという意味では、多くの女性、有色人種のコミュニティー、移民、そして有色人種の女性たちが今回初めて、主要政党の候補に自分を投影できるようになった。

ハリス議員の生い立ちの物語は、多くの人の共感を呼ぶものであると同時に多様性に満ちている。変わりつつあるアメリカの人口構成を反映しているのだ。多人種化が一層進むアメリカにあって、彼女は民主党の将来を代表する。

南アジア系アメリカ人は、自分たちを代表する政治家たちが登場する意味を話題にしてきた。

ハリス議員は黒人女性を代表する存在でもある。民主党の屋台骨を長く支えてきた黒人女性たちは、自分たちの要求にもっと反応するよう、かねて党に呼びかけていた。

黒人女性の政治参加を増やそうとする、「Higher Heights for America」や「Black Women's PAC」などといった団体は、黒人女性が長年首尾一貫して忠実に党を支え、党に貢献してきたことを認めるためにも、黒人女性を副大統領候補にするよう、民主党に呼びかけてきた。

「#BlackWomenLead(黒人女性は先頭に立つ)」というハッシュタグの広がりは、有権者や政界エリートの間に占める黒人女性の力を、オンラインであらためて示した。黒人女性を副大統領候補にするよう求める声の盛り上がりは、これまで黒人女性たちがいかに長年にわたり組織的に、黒人女性の権利実現のため活動してきたかを物語っている。

ゆえに、今の政治的瞬間において、ハリスという選択は正しかったのだ。

全米初の黒人女性大学生の交流団体「アルファ・カッパ・アルファ・ソロリティ」や、アフリカ系アメリカ人コミュニティーの強化を目的とするボランティア組織「The Links, Incorporated」などのメンバーになることで、ハリス議員は黒人に政治的影響力を与えるために構築されてきたアメリカの制度の中に自ら進んで参加してきた。

私は黒人女性の政治参加を研究対象に、近く論文を発表する予定だが、その中でもこうした組織の重要性を指摘している。アメリカ政治で黒人が掲げる明確な政策目標を確立するためにも、黒人有権者の政治参加スキルを向上させるためにも、上述したような黒人組織は重要な役割を果たしてきた。

こうした運動に参加してきたハリス議員は、当選すればその運動の系譜をホワイトハウスにも持ち込むことになる。

それに加えて、ハリスが当選すれば、彼女を補佐する複数の黒人女性スタッフも一緒にホワイトハウス入りすることになる。(連邦議会では黒人女性スタッフが少なすぎる状態が長く続いているが)有力政治家のスタッフは政策づくりに相当の影響力を持つ。

となれば、カマラ・ハリスという選択は、単なるシンボルでは終わらない。政策に反映される実質的な変化が可能になる。この実質的な変化こそ、アメリカ人がいま必要としているものだ。

これまで社会の隅に追いやられ、声がかき消され、無視されてきた人たちの声を、ハリスは政策検討の場に持ちこむだろう。

上院議員として、カマラ・ハリスはパンデミックの最中に家賃やローンの不払いで人が家を追い出されないよう、強制退去禁止のために働いた。国民医療保険の実現や黒人妊産婦の健康推進事業のために働いた。幼少時に大人に連れられて不法入国した人たち、いわゆる「ドリーマー」に市民権獲得の道筋を提供するため働き、反トラスト法を武器に大手IT企業の規制強化に取り組んだ。

いずれも、政界の黒人女性リーダーたちが推進してきた政策の流れに沿うものだ。

私は、黒人女性と政治におけるジェンダーを研究してきた。黒人女性は立法政策の決定過程に自分の全存在を注ぎ込む。カマラ・ハリスも明らかにその1人だ。


(ナディア・E・ブラウン博士は、インディアナ州ウェストラフィエットのパーデュー大学で政治学とアフリカ系アメリカ人研究を教える准教授)

(英語記事 Viewpoint: Kamala Harris 'brings marginalised groups to the table'