2020年08月18日 13:59 公開

ジョン・サドワース、BBCニュース

中国西部・新疆ウイグル自治区の収容施設での収監中に内部を撮影したウイグル人モデルについて、中国政府は合法的に拘束されているとの見解を示した。

マーダン・ギャパーさん(31)の自撮り動画には、薄汚れた壁に囲まれ、窓には鉄格子がつけられた部屋で、汚れた服を着た本人の姿が写っている。足首は腫れ上がり、左手首にはめられた手錠は、ベッドの鉄フレームにつながれている。ほかに家具は見当たらない。

かつて広東省仏山市でモデルとして働いていたギャパーさんは、今年2月に家族にこの動画や収容施設内の様子を記したメッセージを送っていたが、3月初めから連絡が取れなくなっている。

BBCはギャパーさんの家族からこの動画を入手し、8月初めに公開した

BBCは同時に中国当局に対して質問リストを送っていたが、それから2週間以上たって、新疆ウイグル自治政府から書面で回答が来た。

新疆ウイグル自治政府からの回答は、「中華人民共和国の刑務所法37条には、人民政府は釈放された囚人の再定住を支援すると定められている」という内容だった。

「移送の際、マーダン・ギャパーは自傷行為および警察に対する過剰な行動をとった。警察は合法的手段で彼を制止し、容体が落ち着き次第、この手段による制止を解いた」

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BBCがギャパーさんのおじ、アブダルハキム・ギャパーさんに自治政府からの回答を見せたところ、「もし警察が、マーダンが働けるよう再定住を支援したかったのなら、彼が住んで働いていた仏山市で行うべきだった」と指摘した。

「強制的にクチャ市に送られるべきではなかった」

アブダルハキムさんは2009年から新疆ウイグル自治区で政治ビラを配るなどの平和的な活動をしてきた。2011年に中国当局に逮捕されそうだと知り、国外に脱出現在はオランダで暮らしている。

大麻販売で逮捕から「再教育」

ギャパーさんは長年、仏山市に住み、アパレルモデルとして豊かな生活をしていたが、出生地の新疆ウイグル自治区クチャ市に移送された。

2018年8月に大麻を販売したとして逮捕され、1年4カ月の実刑が言い渡された。彼の友人は、容疑はでっち上げだったと主張する。

ギャパーさんは2019年11月に刑務所を出たが、1カ月もたたないうちに警官が訪れ、新疆ウイグル自治区に戻って規定の手続きをする必要があると言われた。

今年1月15日、ギャパーさんは新疆ウイグル自治区に飛行機で移送された。家族はギャパーさんが再教育施設に送られたと考えた。

ギャパーさんのメッセージによると、収容施設に収監された後、発熱の兆候が出たために感染予防センターに移送された。返却された持ち物の中に携帯電話があり、それで動画を撮ったという。


家族への説明なく

おじのアブダルハキムさんによると、ギャパーさんが連れて行かれた1月に、「再定住」という説明は一切されなかった。

その代わり当局は「地元で数日間の教育を受ける必要があるかもしれない」と説明していた。BBCはこの証拠も入手している。

ギャパーさんの家族は、この「教育」というのは高度な警備体制の敷かれた再教育施設のことだと考えている。

信頼できる推定によると、過去数年間で100万人超のウイグル族と他の少数民族が、こうした収容施設に入所させられている。中国はこの施設について、反過激主義の教育を目的とした、自主的に入る学校だとしている。

また最近の調査では、何千人もの子どもが親から引き離されている。また、女性には避妊手術が強制されている。

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BBCの送った質問のうち、回答がなかったものもある。

ギャパーさんがどうやって監視の厳しい新疆の収容システムの中から手錠をかけられた自分の動画を送ることができたのかについて、言及はなかった。

家族はBBCに対して、感染予防センターで所持品を返された際に、守衛に気付かれずに携帯電話を回収することができたのだと話していた。

ギャパーさんによると、収容施設では手錠と足かせをされ、頭に袋を被せられた状態で、小さな部屋に何十人もが押し込められていた。

また、施設内では拷問が行われ、「朝から晩まで男性が叫んでいるのが聞こえた」こともあると記している。

政府はこうした扱いについても回答していない。

ギャパーさんの自撮り動画に映っていた、感染予防センターでの汚い衣服や手錠についても回答はなかった。

その一方で、ギャパーさんが行ったという暴力や自傷行為について羅列し、収監が妥当で合法なものだと主張している。

「彼は感染予防センターでは職員による検温を拒否し、暴言や暴力を振るった」

「こうした言動から、犯罪を起こす疑いがあり、警察は強制措置を取らざるを得なかった」と政府は回答し、さらにギャッパーさんの件は「手続き中」だと述べた。

警察暴力を被害者のせいに

中国の新疆政策に詳しい米ジョージタウン大学のジェイムズ・ミルワード教授は、新疆自治政府の回答には、クチャ市の警察署の様子についての説明が一切ないのが興味深い。ギャパーさんのメッセージにあった過密状態、暴力、不衛生な環境、50~60人で8セットの食器を使いまわしているといったものだ」と語った。

「ギャパーさんがどんな理由でクチャに収監されているにせよ、(新型コロナウイルスの)パンデミックが起きている中、彼の説明にあったような環境は非常に不安なものだ」

ウイグル族について研究している米コロラド大学のダレン・バイラー博士も、「自治当局の言い分は典型的だ。警察の過剰暴力を批判されると、被害者のせいにする。今回もその一例だ」と話した。

「再教育政策は2017年から始まっており、収容された人はその状況について抗議することが許されていない。その代わり『良い態度』を心がけ、脅迫や暴力、拷問の中で罪を認めるよう求められている」

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人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウオッチで中国研究を担当しているマヤ・ワン氏は、「中国警察には、拷問の一種として虐待的な環境での拘束を用いる長い歴史がある」と話した。

「新疆ではイスラム教徒の処刑も行っている。これらを合わせれば、マーダン・ギャパーをめぐる当局の回答に説得力があるとは思えない。何も後ろめたいことがないなら、国連の専門家を含む独立監督機関を新疆に迎えるべきだ」

BBCの質問に対して、自治区政府の回答には、虐待などについての説明はなく、アブドルハキムさんが平和活動関連で中国で指名手配されている事実はあるのかという質問にも答えはなかった。

それでもギャパーさんの家族は、今回の回答によって、ギャパーさんが確かに当局に拘束されたのだという確認が初めてとれたと話す。家族には3月初め以来、本人からの連絡がない。

「私はマーダンのことをよく知っている」と、アブドルハキムさんは話す。

「彼が自傷するとは思えない。中国が彼を傷つけ、その言い訳を探しているだけだと思う」

「彼が生きていて無事だと、見せてほしい。そうでなければ書面の内容は一切信じられない」

(英語記事 China defends detention of Uighur model