秋山英宏(テニスライター)

 イタリアで8月3日、パレルモ女子オープンが幕を開け、新型コロナウイルス感染拡大で中断していたテニスツアーが約5カ月ぶりに再開した。17日からはツアー下部大会も再開しており、月末には四大大会の全米オープンが開幕する。

 しかし、テニスが戻ってきたと喜ぶのはまだ早い。10月に東京で開催されるはずだった楽天ジャパン・オープンなど秋のアジアシリーズの大会は、大半が中止を決めた。開催が予定されている欧州などの大会も、新型コロナの感染状況に開催の可否が左右される。

 テニス競技そのものは相手との接触がなく、比較的、感染対策がとりやすいが、プロツアーはパンデミック(世界的大流行)に大きく影響される。選手が世界を転戦するというテニスツアーの特徴が災いし、再開が遅れた。大会開催地や近隣の国々で感染が収まっても、選手や関係者が世界中から集まるため、ウイルスが持ち込まれるリスクがつきまとう。渡航制限や空港での検疫、2週間の自主隔離など往来の不自由さが大会開催を難しくする。そこがテニスツアーの弱みである。

 楽天オープンを主催する日本テニス協会は「選手、関係者を安全にスムーズに出入国させられるか見通しが立たない」「選手、関係者、観客への十分な安全対策が整えられない」と泣く泣く中止を決めた。同協会は、年間の事業収益の50%を大きく超える約10億円の収入を失うことになる。

 選手も苦しんでいる。2019年全仏オープンの男子ダブルスを制したケビン・クラビーツ(ドイツ)はツアーの中断期間に、ディスカウントストアでアルバイトをして生活費を稼いだという。出場する大会がなくなった選手、特にスポンサー収入に恵まれない選手は、練習やトレーニングよりもまず、どうにかして生活していくことを考えなくてはならない。

 こうした苦境を見たノバク・ジョコビッチ(セルビア)が、ランキング下位選手を救済する基金の設立を呼びかけた。ロジャー・フェデラー(スイス)など選手仲間やツアーを運営するプロテニス選手協会(ATP)と女子テニス協会(WTA)、国際テニス連盟(ITF)、さらに四大大会の各主催者も賛同し、「プレーヤー救済プログラム」に発展、600万ドル(約6億3300万円)の援助金が集まった。さらに、ITFは加盟国のテニス再開を支援する目的で、各国の協会に約145万ドル(約1億5300万円)を提供すると決めた。

 とはいえ、長期化が予想されるコロナ禍を乗り越えられない選手やトーナメントが出てくることは避けられないだろう。男女のプロツアーは毎年12月末から翌年1月の上旬に開幕し、11月の最終戦まで、ほぼ休みなく続く。withコロナの時代に、これまでの規模と人気を維持できるのか。
ウエスタン・アンド・サザン・オープンに出場した錦織圭=2019年8月14日、シンシナティ(共同)
ウエスタン・アンド・サザン・オープンに出場した錦織圭=2019年8月14日、シンシナティ(共同)
 8月31日に開幕する全米オープンは、感染拡大の影響で規模を縮小し、無観客で開催される。混合ダブルス、ジュニアの各部門とシングルスの予選は実施せず、通常各64組が出場する男女のダブルスは32組で争う。今後、パンデミックの第2波、第3波が押し寄せれば、無観客開催や大会の規模縮小、開催中止などの対応が続くだろう。