
2020年08月20日 15:30 公開
大統領選の結果をめぐる抗議デモやストライキが10日以上続くベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領(65)が、支配力を再び確立するための対応策を強化している。ルカシェンコ氏は19日、首都ミンスクでの抗議を鎮圧するよう警察に命じたと明かした。
ルカシェンコ氏は安全保障会議で、「ミンスクではもはや、どのような無秩序もあってはならない」と述べた。
さらに、「国民は疲れ果てている。国民は、静かに落ち着いた状態を求めている」とし、「戦闘機や武器」の流入を防ぐために国境管理を強化するよう命じたと明かした。
ルカシェンコ氏は、大統領選やその後の取り締まりに抗議してストライキに参加した国営メディアの従業員には、職場復帰を認めないと警告した。また、工場の外に集っている抗議者が、工場の労働者に嫌がらせをしていると非難した。
検問所で身元チェック
ミンスクで取材するBBCのジョナ・フィッシャー記者によると、19日朝にはミンスクでベラルーシ当局が、戦術を変更する兆しがすでに確認できたという。
国営テレビ局に通じる道路には検問所が設置され、警察がテレビ局へ向かう人の身元をチェックしていた。また、ミンスク周辺の工場周辺でのストライキも警察に妨害されているという。
ロシアがベラルーシに人員を派遣したとの報道もある。
新内閣組閣、主要閣僚が留任
ルカシェンコ氏はこの日、新内閣の組閣も行った。今後、下院の承認を仰ぐこととなる。
ラマン・ゴロフチェンコ首相のほか多くの主要閣僚が留任すると、地元ニュースサイトTut.byが報じた。
取り締まりや治安維持などを担当するユーリ・カライエフ内相も留任リストに含まれる。
9日の大統領選では、1994年から実権を握ってきたルカシェンコ大統領が6期目当選を決めた。
中央選挙管理委員会によると、大統領選でのルカシェンコ氏の得票率は80.1%、対立候補のスヴェトラーナ・チハノフスカヤ氏(37)は10.12%だった。
しかし、中立の選挙監視団は呼ばれていなかったため、選挙結果は不正だと批判する声が高まり、抗議デモやストライキが10日以上続いている。
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今回の動きは、欧州各国の外相がベラルーシ当局者に対して制裁措置を取ることで合意するなど、国内外から反発が起きる中、事態がエスカレートしていることを示唆するものとなった。
欧州理事会のシャルル・ミシェル議長は19日、欧州連合(EU)が選挙結果を承認していないことを明確にした上で、収監されている数百人もの抗議者を釈放するようルカシェンコ氏に求めた。
なぜエスカレートしているのか
現在は隣国リトアニアへ脱出しているチハノフスカヤ氏が、大統領選の結果を拒否するよう欧州各国の首脳に求めてから間もなく、ルカシェンコ氏は対策強化について言及した。
チハノフスカヤ氏は19日、ビデオ声明で、ルカシェンコ氏は「我々の国そして世界の視点から見れば、全ての正当性を失っている」と述べた。
そして、欧州諸国に「ベラルーシの覚醒」を支持するよう求めた。
「自分たちの票を守るためにベラルーシ全土の都市で抗議した人たちが、必死に権力にしがみつく政権によって残忍に殴られ、投獄され、拷問された。これは今、ヨーロッパの真ん中で起きていることだ」
チハノフスカヤ氏は「国際的監視の下で、新しく公正で民主的な大統領選」を計画する「調整協議会」を設置した。これについてルカシェンコ氏は18日、野党が「権力を掌握しようとしている」と非難した。
EUの反応は
EU加盟国首脳は19日、3時間におよぶビデオ会議の末、ベラルーシに対して3つの措置を講じることで合意した。
BBCのギャヴィン・リー欧州担当記者によると、合意内容は次の通り――。
- 第一に、不正選挙や残虐行為、抗議者の投獄といった疑惑に関与した当局者(まだ人数は公表されていない)に対し、資産凍結を含む制裁を科す。具体的な制裁措置は検討中。
- 第二に、EU加盟国首脳は路上で抗議する人を支持し、選挙結果を認めないことを共同文書で明確にすることで合意した。一方で、一部のEU当局者が望んでいたように、ルカシェンコ大統領の権力を否定することはしない。
- 第三に、EU加盟国首脳はベラルーシ政府と野党の対話を仲裁し、ルカシェンコ大統領が退陣して平和的に権力を移譲する方法を見つけるための支援を申し出た
また、5300万ユーロ(約67億円)をベラルーシの非政府組織に拠出するという。暴力行為の犠牲者の支援や、政府が支援するメディア組織に代わる機関の設置などに充てることを目的としている。
ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、選挙は自由でも公正でもなかったと述べた。
メルケル首相はさらに、論争の的となっている大統領選後に起こった「デモ参加者に対する残忍な暴力行為や数千人ものベラルーシ人に対する暴力の行使」を、EU加盟国首脳が非難したと付け加えた。
メルケル氏と欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、ベラルーシ当局と野党の対話の必要性を強調した。
ロシアの介入は
26年にわたり政権を握るルカシェンコ氏は、隣国ロシアと緊密な関係を維持してきた。
大統領選をめぐる混乱が続く中、ルカシェンコ氏はロシアのウラジミール・プーチン大統領に助けを求めた。
ルカシェンコ氏によると、プーチン氏はベラルーシが外部からの軍事的脅威を受けた場合に、包括的な援助をすることで合意したという。
しかし、プーチン大統領の報道官ドミトリー・ペスコフ氏は19日、今のところロシアが軍事的あるいはほかの方法でベラルーシを支援する必要性はないと発言した。
メルケル氏は、「我々は、ロシアによる軍事介入で事態がはるかに複雑になると、立場を明確にしている」と述べた。