私自身も、当初は吉村氏が発表した大阪モデルに期待した。国とは一線を画し、大阪は徹底的に感染リスクを減らすため市民に強い警戒を呼びかけ、感染者を減らした上で経済をより早く正常な状態に戻す。それが実現できるのではないかと。

 しかし、現実は真逆となってしまった。覚悟なき吉村氏のかじ取りのために、現状は市民に対して警戒を呼びかけるどころか、むしろ混乱を引き起こすだけとなっている。

 吉村氏は自宅から府庁舎まで送迎車がつくので見えていないことだろうが、大阪に「赤信号」がともらないため、緊急事態宣言解除直後のように府民の新型コロナ感染への警戒は再び緩んでしまった。

 今の大阪は、高齢者のマスク着用率が下がり、子供たちも夜な夜なマスクもせずコンビニ前や公園で騒いでいたりする。「赤信号」と言われるのと「黄信号ステージ2」では、府民の感染予防対策への心構えも変わる。

 大阪モデルは一種の注意喚起として感染拡大防止につなげることが可能なツールであるのにもかかわらず、吉村氏が積極的なメディア露出で得た発信力を正義のために生かしていないことが、残念極まりない。

 直近で吉村氏の失態として話題となったものといえば、8月4日の会見における「イソジン発言」が最たるものだろう。新型コロナに関しては未知の部分が多いが、まるで「イソジン」で「うがい」さえしていれば感染しないと受け取れるような言い回しをしてしまった。

 会見での影響はすさまじく、その直後からドラッグストアではイソジンが完売し、医療現場からは「確実でない情報を流した上に、医療現場で必要なイソジンが不足してしまっている」と、吉村氏の引き起こした大混乱を嘆く声も数多く上がった。

 このような批判を受けてもなお、吉村氏は「予防効果があるということは一切ないし、そういうことも言ってない」「感染拡大防止への挑戦」と苦しい釈明したのだが、ではなぜテレビショッピングみたいに会見でうがい薬を並べて紹介したのかという疑問を禁じ得ない。加えて、彼の口にした「挑戦」は研究段階においてすべきことであって、人の命や健康に関わることを軽々しく府民に伝えるべきではない。
うがい薬の活用について説明する大阪府の吉村洋文知事(右)と大阪市の松井一郎市長=2020年8月4日、大阪市中央区(前川純一郎撮影)
うがい薬の活用について説明する大阪府の吉村洋文知事(右)と大阪市の松井一郎市長=2020年8月4日、大阪市中央区(前川純一郎撮影)
 「イソジン会見」におけるもう一つの問題点としては、過剰なヨード摂取が甲状腺機能の低下を招く可能性を適切に伝えていないことだ。イソジンを買った人たちの中には、一日に何度もうがいをし、過度な使用をする人が実際にいる。こうした問題を避けるためにも、医療に関する発言はパフォーマンス重視の政治家ではなく専門家がすべきであった。

 吉村氏は医師ではないのに、以前から医療機関の代弁をするような発言を独断で繰り返しており、そのたびに医療現場は混乱に陥り、現場からも苦言が呈されている。PCR検査数についても、吉村氏は「検査数が足りていないとは思っていない」と述べたが、大阪医師会では「検査数を積極的に拡充すべき」と発表するなど、もはや裸の王様さながらの様相である。

 さらには吉村氏のイソジン発言によって、府には抗議の電話が殺到し、府の保険医協会も猛省を促す声明を発表する事態にまでなった。吉村氏の暴走発言が原因による騒動なのに、当人は矢面に立って直接対応することもなく、連日多忙を極める役所職員が尻拭いに追われている。