2020年08月22日 12:37 公開

体調不良を訴えて入院し、こん睡状態に陥ったロシアの野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(44)が22日朝、ドイツのベルリン・テーゲル空港に到着した。ナワリヌイ氏は現在、同市内のシャリテ大学病院で治療を受けている。

ナワリヌイ氏はロシア第5標準時(オムスク時間、OMST)22日朝、当初入院していたロシア中南部オムスクの病院から空港へ運ばれ、事前に用意された輸送機でドイツへ向かった。

ナワリヌイ氏の妻ユリア氏も同行した。

医療設備を搭載した患者搬送用の飛行機は、ドイツのNGO団体「シネマ・フォー・ピース財団」が手配した。

同団体の創設者で、活動家兼映画製作者のヤカ・ビジル氏はドイツ紙ビルトに対し、ナワリヌイ氏の容体は移送中も着陸後も「安定」していると明かした。

ナワリヌイ氏は20日、ロシア国内を旅客機で移動中に体調を崩した。この飛行機は中南部オムスクに緊急着陸した。広報担当者は、出発地トムスク空港のカフェで飲んだお茶に何かが混ぜられていた可能性があると話している。

一転して移送を許可

オムスクの病院で最初に治療にあたった医師たちは21日、ナワリヌイ氏の症状は重篤で移送できる状態ではないと主張していた。

しかしその後、飛行機での移動ができる程度には容体が安定しているとし、ドイツへの移送を一転して認めた。

ナワリヌイ氏の広報担当で、同氏が2011年に発足した反汚職連盟のキラ・ヤルミシュ氏は22日早朝、「アレクセイ・ナワリヌイは救急車に乗せられ、空港へ移送される」とツイートした。

さらに、「サポートしてくださった全ての方に大変感謝している。アレクセイの命と健康のための戦いはまだ始まったばかりだ」と書いた。

ヤルミシュ氏はこれに先立ち、輸送機と適切な書類の準備が20日朝からすでに整っていたのに、医師が移送許可を出すまで長い時間がかかって残念だと述べていた。

医師たちは21日に何と?

入院先のオムスク病院のアレクサンドル・ムラホフスキー院長は21日夜、自分たちは飛行機での移送を推奨しないが、「ナワリヌイ氏の妻がドイツの病院への移送を強く求めている」と述べた。

インタファクス通信によると、「患者の容体は安定している」と同病院の副主任アナトリー・カリニチェンコ医師は説明。「親族からナワリヌイ氏を他の場所へ移す許可を出してほしいとの要望を受け、別の入院施設への移送に反対しないという決断を下した」と述べた。

医師たちは先に、ナワリヌイ氏の体内から毒物は検出されなかったとし、低血糖による「代謝異常」が原因かもしれないと示唆していた。

その後、保健当局はナワリヌイ氏の皮膚や髪から工業化学物質の痕跡が見つかったとした。地元の内務当局はロシア国営通信社RAPSIに対し、この化学物質は通常、ポリマーの弾性を高めるために使われるものだが、濃度は特定できなかったとした。

「治療モードから、隠ぺいモードに」

ナワリヌイ氏の側近レオニド・ボルコフ氏はドイツ・ベルリンでの記者会見で、病院の医師たちは当初、ナワリヌイ氏の移送を円滑に進めようとしてくれていたが、突然協力しなくなったと述べた。

「まるで何かのスイッチがオフになったようだった。治療モードがオフになって、隠ぺい工作モードがオンになった感じだった。医師たちはそれ以上協力するのを拒み、アレクセイの妻にさえ情報を提供するのを拒否した」

「アレクセイをシャリテ大学病院へ移送できるように資料作成を手伝っていた医師たちが、これ以上の移送には耐えられない状態だ、もはや容体は安定していないなどと言い出した。これまでの主張と矛盾していた」

ナワリヌイ氏の妻ユリア氏は、ウラジミール・プーチン大統領に宛てた書簡で、夫の移送を許可してほしいと求めた。ユリア氏は、ロシア当局が化学物質の証拠が消滅するように時間稼ぎしているのではと懸念していた。

ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は20日、政府は必要に応じてナワリヌイ氏の海外への移送を支援するとし、同氏の「一刻も早い回復」を願っていると述べた。21日には、移送の有無は完全に医学的判断だとした。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相やフランスのエマニュエル・マクロン大統領ら外国首脳は、ナワリヌイ氏の容体について懸念を示している。

米大統領選の野党・民主党候補のジョー・バイデン前副大統領はツイッターで、この事件は「容認できない」とした上で、自分が大統領となった暁には「プーチンのような独裁者に立ち向かう」と誓った。

過去の毒物使用疑惑と「類似」

ナワリヌイ氏の輸送機を手配した「シネマ・フォー・ピース財団」は2018年、ロシアの反体制パンク・ロックバンド「プッシー・ライオット」のメンバー、ピョートル・べジロフ氏に中毒症状がみられた際にも、治療が受けられるよう尽力した。

べジロフ氏の元妻で活動家のナージャ・トロコンニコワ氏はBBCに対し、ナワリヌイ氏の状態は元夫が「毒を盛られた」時と似ていると述べた。

「元夫の血液からは、毒物が検出されなかった。ドイツの医師団からは当時、毒物は3日で消滅すると説明を受けた。つまり、ロシアの医師たちは体内に毒物の痕跡が残っていないことを確認してから、(ナワリヌイ氏を)解放したことになる」

トロコンニコワ氏はまた、「アレクセイは政治指導者として非常に影響力のある人物だったので、プーチン氏は干渉しないと思っていた」と述べ、驚きをあらわにした。

機内で痛みを訴え

ナワリヌイ氏は20日、ロシア国内を飛行機で移動中に体調不良を訴えた。

ソーシャルメディアに投稿された動画には、ナワリヌイ氏が空港の滑走路でストレッチャーに乗せられ、救急車へと運ばれる様子が映っている。

別の動画では、ナワリヌイ氏が機内で苦しそうに悲鳴を上げている様子も見てとれた。

同じ飛行機に乗っていたパヴェル・ラベデフ氏は、「飛行機が離陸してすぐ、彼はトイレに行ったまま戻ってこなかった。それから具合がどんどん悪くなっていった。苦しんで叫んでいた」

アレクセイ・ナワリヌイ氏とは?

汚職撲滅運動家のナワリヌイ氏は、議員ではないものの、2011年の議会選挙以降、プーチン大統領と幹部への抗議活動を続けている。プーチン大統領率いる与党・統一ロシアを「いかさま師と泥棒の党」と呼び、これまでに何度も逮捕され、禁錮刑となっている。

2011年には、統一ロシアが議会選挙で不正投票を行ったことに抗議し、逮捕。15日間刑務所に入れられた。

2013年にも横領の容疑で禁錮刑となったが、政治的に断罪されたと非難している。

2018年に行われた大統領選では、公金横領事件で有罪判決を受けたことを理由に出馬申請を却下された。同氏はこれは、政治的な意図による判断だと否定している。

2019年7月には、認可のない抗議活動をしたとして30日間の禁錮刑となったが、その最中に体調を崩して病院へ搬送された。

医師は「接触性皮膚炎」と診断したものの、ナワリヌイ氏は自分はアレルギーになったことはないと反発。かかりつけの医師には「何らかの毒物」にさらされた可能性があると診断されたと述べ、毒を盛られた可能性があると話していた。

2017年にも消毒薬を顔にかけられ、右目に化学火傷を負っている。

ロシア政府は昨年、「外国機関」への監視を強化する法律を制定していたが、この中にナワリヌイ氏の反汚職同盟も含まれた。

(英語記事 Alexei Navalny starts journey to Germany