2020年08月25日 11:29 公開

飛行機内で体調が急変し、こん睡状態に陥ったロシアの野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(44)について、入院先のドイツ・ベルリンの病院は24日、毒を盛られたとみられると明らかにした。

ナワリヌイ氏が現在治療を受けているドイツ・ベルリンのシャリテ大学病院は声明を発表し、臨床検査で「コリンエステラーゼ阻害剤に分類される物質による中毒が示されている」と説明した。

しかし、当初の入院先だったロシア・オムスク病院の医師団は先に、ナワリヌイ氏の体内から毒物は検出されなかったとし、低血糖による「代謝異常」が原因かもしれないと示唆していた。

ドイツの医師団の発表後、オムスク病院の医師団も声明を出し、検査の結果ナワリヌイ氏の体内にコリンエステラーゼ阻害剤の兆候は見られなかったと主張した。

ドイツの医師団の主張

ドイツのシャリテ大学病院は声明で、集中治療室に入っているナワリヌイ氏の容体は「深刻だが、命の危険はない」と説明した。

「正確な物質はまだ特定されていない」としつつ、「広範な分析が始まっている。この毒物の作用、すなわちコリンエステラーゼによる体内での阻害作用が、独立した複数の研究室で何度か証明されている」とした。

医療チームは容体がどうなるかは依然として不明とし、神経系に影響を及ぼす可能性を警告したという。

ナワリヌイ氏には解毒剤のアトロピンが投与されている。これは2018年に英ソールズベリーでロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリア氏が毒殺未遂に遭った際に、イギリスの医師が治療で使用したもの。

<関連記事>

ナワリヌイ氏は20日、ロシア国内を旅客機で移動中に体調を崩した。この飛行機は中南部オムスクに緊急着陸し、ナワリヌイ氏はオムスク病院へ搬送された。

広報担当者は、出発地トムスク空港のカフェで飲んだ茶に何かが混ぜられていた可能性があると話している。

一転して移送を許可

ナワリヌイ氏は22日、医療設備を搭載した患者搬送用の飛行機でドイツのシャリテ大学病院へと移送された。

移送をめぐっては、オムスク病院の医師は当初、ナワリヌイ氏の症状は重篤で移送できる状態ではないと主張していた。

しかしその後、飛行機での移動ができる程度には容体が安定しているとし、ドイツへの移送を一転して認めた。

機内で痛みを訴え

ナワリヌイ氏は20日、ロシア国内を飛行機で移動中に体調不良を訴えた。

ソーシャルメディアに投稿された動画には、ナワリヌイ氏が空港の滑走路でストレッチャーに乗せられ、救急車へと運ばれる様子が映っている。

別の動画では、ナワリヌイ氏が機内で苦しそうに悲鳴を上げている様子も見てとれた。

「治療モードから、隠ぺいモードに」

ナワリヌイ氏の支持者たちはロシア政府を非難している。

ナワリヌイ氏の側近レオニド・ボルコフ氏は、病院の医師たちは当初ナワリヌイ氏の移送を円滑に進めようとしてくれていたが、突然協力しなくなったと述べた。

「まるで何かのスイッチがオフになったようだった。治療モードがオフになって、隠ぺい工作モードがオンになった感じだった。医師たちはそれ以上協力するのを拒み、アレクセイの妻にさえ情報を提供するのを拒否した」

「アレクセイをシャリテ大学病院へ移送できるように資料作成を手伝っていた医師たちが、これ以上の移送には耐えられない状態だ、もはや容体は安定していないなどと言い出した。これまでの主張と矛盾していた」

ナワリヌイ氏の妻ユリア氏は、ロシア当局が海外への移送前に化学物質の証拠が消滅するよう時間稼ぎしているとの懸念を示した。

しかし、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は20日、政府は必要に応じてナワリヌイ氏の海外への移送を支援するとし、同氏の「一刻も早い回復」を願っていると述べた。21日には、移送の有無は完全に医学的判断だとした。

オムスク病院のアレクサンドル・ムラホフスキー院長は、「患者(ナワリヌイ氏)の治療への影響は何もなかった。影響を与えるようなものがあるわけがない」と述べた。

汚職撲滅運動家のナワリヌイ氏は、議員ではないものの、2011年の議会選挙以降、プーチン大統領と幹部への抗議活動を続けている。プーチン大統領率いる与党・統一ロシアを「いかさま師と泥棒の党」と呼び、これまでに何度も逮捕され、禁錮刑となっている。

今回輸送機を手配したドイツのNGO団体「シネマ・フォー・ピース財団」は、ナワリヌイ氏はおそらく1~2カ月間はこうした活動を休止することになると述べた。

各国の反応

ドイツのアンゲラ・メルケル首相はハイコ・マース独外相との共同声明で、毒物事件に関与した人物を特定し、責任を負わせるよう求めている。

「ナワリヌイ氏のロシアの野党指導者としての重要な役割を考慮すると、ロシア当局には今、この行為を徹底的に、完全な透明性をもって調査することが求められている」

イギリスは23日、「完全で透明性ある」調査を行うよう求めた。

米大統領選の野党・民主党候補のジョー・バイデン前副大統領はツイッターで、この事件は「容認できない」とした上で、自分が大統領となった暁には「プーチンのような独裁者に立ち向かう」と誓った。

コリンエステラーゼ阻害剤とは

コリンエステラーゼ阻害剤はアルツハイマー病などの治療にも使用される化学物質だ。神経剤や農薬に使用されると、人体に有害になることもある。

「コリンエステラーゼ阻害剤は神経から筋肉への伝達を制御するのに重要な酵素を阻害する」と、リーズ大学の環境毒性学名誉教授のアラステア・ヘイ氏は説明する。

「この酵素はアセチルコリンエステラーゼと呼ばれるもので、これが阻害されると神経から筋肉への伝達が妨害され、筋肉の収縮や弛緩ができなくなる。けいれんのような状態になる」

「全ての筋肉が影響を受けるが、最も重大なのは呼吸に影響を与える筋肉への影響だ。呼吸が阻害されれば意識不明に陥る可能性がある」

(英語記事 Putin critic Navalny 'probably poisoned' - doctors