濱田昌彦(元陸上自衛隊化学学校副校長)
新型コロナウイルスの感染問題は、8月終盤を迎えても依然として終息の兆しを見せていない。そして、夏の厳しい暑さの下、防護服を着用した医療関係者が屋外でPCR検査をする姿に、注目が集まった。個人的にその光景は、春夏秋冬、季節を問わず任務や訓練に携わる自衛隊員たちを彷彿(ほうふつ)とさせた。
彼らの属する化学部隊もまた、今も昔もこうした厳しい環境下で活動してきたことは、あまり知られていない。
たとえ気温が40度になろうとも、任務は待ってくれない。化学テロが真夏にないとは言えないし、近年情勢が厳しい南西諸島への侵攻が、こうした暑い時期にはないとも限らない。テロリストといった敵も、季節に合わせて待ってはくれないのである。だからこそ、自衛隊は炎天下でも任務と訓練に励むことになる。
さらに言えば、活動の苦しみを知るからこそ、この酷暑の中で従事する医療関係者の苦悩や奮闘もまた理解できる。
真夏の除染訓練の思い出は今でも鮮明である。肩に食い込む携帯除染器の重さ、ブチルゴムの化学防護衣の不快感、防護マスクの視野の狭さからくる圧迫感などはまだマシだ。訓練が長引けば、自分の汗がゴム製の長靴やゴム手袋に流れ込む。
それがくるぶしや指先にまでたまってくる感覚は何とも言えない。それでも入隊時の「服務の宣誓」、すなわち「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います」と言った手前、暑いからといって投げ出すわけにはいかない。
もちろん訓練でも、安全管理には細心の注意が払われているとはいえ、リスクは常にある。

ある暑い夏の日のことだ。太陽がさんさんと照らす中の訓練で、陸上自衛隊(陸自)の新米の化学科幹部である3等陸尉が悪戦苦闘していた。陸自の大型トラックを携帯除染器で除染する訓練だ。ところが終わりに近づいたころ、いつの間にか3尉がいないことに同僚が気づいた。
どうしたのかと数人で手分けすると、捜し出したのは、防護マスクの中で嘔吐(おうと)したまま倒れている3等陸尉の姿だった。下手をすれば、誰も気づかずにそのまま窒息していても不思議ではなかった。
熱中症と当日の体調には、強い相関があることが指摘されている。マスクと防護服を着用したまま活動すると顔色が見えず、当人の体調が確認しづらくなる。顔を覆った状態での作業では、定期的な体調確認を頻繁に行うなど注意が必要だ。