2020年08月26日 15:15 公開

米食品医薬品局(FDA)のスティーヴン・ハーン長官は25日、新型コロナウイルスの感染症COVID-19について、回復した人の血しょうの治療効果を誇張していたと謝罪した。

FDAは23日、新型ウイルス治療に回復した人の血しょうを用いる「緊急使用許可」を出した。

血しょうによる治療はドナルド・トランプ大統領の肝いりで、ハーン長官も命を助ける治療法だと話していた。

これに対して科学者からは、すぐにハーン氏の示したデータへの疑問の声が上がった。ハーン氏は血しょうによる治療で致死率が35%下がると話していたが、これは米病院メイヨー・クリニックからの中間報告の内容を誇張したものだった。

ハーン氏は25日にCBSニュースに出演した際、「血しょうについてのデータが何を示しているのか、記者会見での説明をもっと上手にできるはずだったし、するべきだった」と語った。

一方で、血しょうの緊急使用許可の決定は、FDAの熟練した科学者による「高度な科学とデータに基づいた」ものとの立場を維持した。

ハーン長官の発言をめぐっては、11月3日の大統領選を前にトランプ政権が推奨している画期的な治療法を支持するもので、政治的との批判が上がっている。

トランプ大統領は、血しょうを使った治療法は「歴史的な」一歩で、「数え切れないほどの」命を救うだろうと述べている。

一方でトランプ氏は発表の前日、政治的な理由でワクチンや治療法の導入を遅らせているとして、FDAを非難していた。

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、アメリカでは26日時点で17万8000人以上が新型ウイルスで亡くなっている。感染者は全国で580万人近くに上っており、どちらも世界最多だ。

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血しょうによる治療に効果は?

FDAはこれまでも限定的に、回復者の血しょうを投与する治療法を認めてきた。

今回の認可も全面的なものではなく、「緊急使用認可」とされている。初期の研究では、入院後3日以内に血しょうを投与すれば死亡率が減少し、患者の容体が改善する可能性が示されているという。

しかし、その有効性を証明するにはさらなる臨床試験が必要だ。


FDAは、血しょう治療を施された2万人の結果を評価した結果、安全だと結論付けたと説明している。

FDAによると、80歳未満で人工呼吸器をつけていない患者に抗体を豊富に含んだ回復者の血しょうを投与したところ、抗体の少ない血しょうを投与された患者と比べて、1カ月後の生存率が35%上がった。

しかし、血しょう治療を行っていない患者との比較はしておらず、絶対的な生存率の確定はできない。

ホワイトハウスの新型コロナウイルス対策タスクフォースのメンバーで、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファウチ博士ら複数の専門家は、現時点までの研究に頑健性があるのかどうか疑念を示している。

また24日には、米紙ニューヨーク・タイムズが、メイヨー・クリニックの研究チームのアルトゥロ・カサデヴァル医師が、この35%という数字がどこから来たか分からないと話していると報じた。

世界保健機関(WHO)も、血しょうを用いた治療は「なお実験段階」にあると指摘。リスクや副作用なども考慮に入れるべきだと述べた。

ワクチン開発の進ちょくは?

トランプ大統領は22日、「FDAのディープ・ステート(闇の政府)か誰かが、製薬会社がワクチンや治療法の試験のために人を確保するのを非常に難しくしている」とツイートした。

さらに、「明らかに、FDAは(米大統領選の)後に回答を遅らせたがっている」と付け加えた。

こうした中、英紙フィナンシャル・タイムズは、英オックスフォード大学と英医薬品大手アストラゼネカが共同で開発を進めるワクチンについて、ホワイトハウスが11月3日の大統領選前に使用を緊急許可する方向で検討していると報じた。

ホワイトハウスはこの報道についてコメントしていないが、アストラゼネカの広報担当者はロイター通信に対し、この試験の有効性の結果は今年後半まで出ないと述べた。


<解説>リスクのバランス ――ミシェル・ロバーツ健康担当編集長

多くの国々で新型ウイルスの治療に回復者の血しょうが使われているが、その効果のほどは明らかになっていない。

こうした治療にアメリカのFDAが認可を与えたのは、リスクのバランスの問題だ。FDAはこれまでに出た証拠から、血しょうを使うことでCOVID-19の症状を和らげたり、感染期間を短くできるとみている。

確かに、自分の免疫力で新型ウイルスと闘っている感染者の体内に、すでにCOVID-19から回復した人から採取した抗体の豊富な血しょうを入れれば、体を守ってくれるかもしれない。

エボラ出血熱などでは、血しょうを用いた治療法が確立されている。

基本的には拒否反応は起きないが、アレルギー反応といった予期せぬ副作用がおきる場合もある。

最近イギリスで行われた分析によると、COVID-19の治療に血しょうが効果があるかは「非常に不明瞭」だという。

現在、どのような患者に有効なのかや、効果の程度などを見るための臨床試験が行われている。


(英語記事 FDA chief's apology for overstating plasma benefits