櫻田淳(東洋学園大現代経営学部教授)

 安倍晋三が内閣総理大臣の辞任を表明した。憲政史上最長の7年8カ月に及ぶ安倍の執政は突如、終止符が打たれることになった。

 安倍内閣の評価については、今後さまざまなものが折に触れて披露されるであろう。本稿では、当座のものとして「安倍後の日本」で直面するであろう難局について私見を示したい。

 安倍内閣の最たる業績は、筆者が判断する限り、対外的な影響力に関するものである。安倍は就任以来、例えば北朝鮮日本人拉致問題や、北方領土問題の落着に熱意を示した。

 ただし、こうした問題は、安倍の熱意の割には、具体的な成果が出ていない。北朝鮮日本人拉致問題に関していえば、その象徴的人士であった横田滋氏が既に鬼籍に入っている。北方領土問題の落着を目指して、安倍はロシア大統領、ウラジミール・V・プーチンを山口に招くなどして、さまざまな努力を重ねたけれども、その努力は実を結んでいない。

 少なくとも、吉田茂にとってのサンフランシスコ講和条約、佐藤栄作にとっての沖縄返還に相当するような「具体的な」外交成果が、安倍内閣では上がっていないというのが素直な評価であろう。

 安倍が上げた外交業績とは、第一義としては「地球儀を俯瞰する外交」「積極的平和主義」という言葉に象徴される理念上のものである。その具体的な事例は「自由で開かれたインド・太平洋」という概念を披露し、それが米大統領、ドナルド・J・トランプ麾下(きか)の米政府にも受け容れられることによって、日米両国の共通構想になった事実にこそある。
大阪で行われたG20首脳会議(サミット)の女性活躍推進のイベントに出席し、会話を交わす安倍晋三首相(左)とトランプ米大統領。中央はイバンカ大統領補佐=2019年6月(代表撮影)
大阪で行われたG20首脳会議(サミット)の女性活躍推進のイベントに出席し、会話を交わす安倍晋三首相(左)とトランプ米大統領。中央はイバンカ大統領補佐=2019年6月(代表撮影)
 現今、2018年10月の米副大統領、マイク・ペンスの「ハドソン演説」を機に表面化した米国と中国の「第2次冷戦」の様相は、熾烈(しれつ)の度を深めている。自由主義世界と権威主義世界が対峙(たいじ)する国際認識を諸国の政治指導者の中で真っ先に披露したのが、安倍なのである。

 とかく、政権掌握前は没価値的な外交運営を行うものと予想されたトランプが、今や中国に最も厳しい姿勢を向けているのは、安倍の影響を抜きにしては語れまい。