田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 先週の連載では、安倍晋三首相の連続在任「2800日」を記念して、これまでのアベノミクスの総括と今後の課題を書いた。結論部分を引用しよう。

 感情的な印象論で決めがちなワイドショー民、健康を政争にすることを恥じない野党勢力、不況を責めながら不況をもたらす財政規律を言い続けるめちゃくちゃなマスコミ。こんな環境の中で、安倍首相はよく2800日も政権を続ける強い意志を持ち続けたと思う。本当に「偉業」だと率直に評価したい。


 この論考が掲載された3日後に、安倍首相は健康悪化を理由に突然辞任を表明した。国民の多くは驚いたに違いない。

 7年8カ月もの間、その強い責任感とリーダーシップで、日本の長期停滞を終わらせたことに、ここで改めて感謝と「お疲れ様でした」の言葉を送りたいと思う。もちろん残されたさまざまな課題は、われわれ国民がこれからも取り組んでいかなければならない。

 現在「ポスト安倍」をめぐる政界の動きが急である。自民党は総裁選出を国会議員と各都道府県の代表による多数決で決める方向だという。

 総裁選の主軸は、菅義偉(よしひで)官房長官と岸田文雄政調会長である。その他立候補を噂されている石破茂元幹事長や河野太郎防衛相らにとって、上記の選出方法が決まれば、今回は芽がないだろう。

 菅、岸田両氏の政策の違いは、とりわけ経済政策において鮮明になる。前者はアベノミクスの継承であり、後者は財務省の主導する緊縮政策により立脚するであろう。

 もちろん岸田氏も、当面は安倍政権の経済政策を継承すると口では言うかもしれないが、実際には財政再建を極めて重視することは間違いない。
取材に応じる自民党の岸田文雄政調会長=2020年8月30日午後、東京都千代田区(萩原悠久人撮影)
取材に応じる自民党の岸田文雄政調会長=2020年8月30日午後、東京都千代田区(萩原悠久人撮影)
 筆者は、現状の日本経済で財政規律を持ち出すことは、日本社会の「死亡宣告」に等しいと思っている。新型コロナ危機で積極的な財政政策を続けなければ、失業者と倒産が雪崩のように出現してしまうだろう。財政規律を一時棚上げし、今は金融政策と財政政策の積極的な対応を行うべきだ。

 実際に先進国や主要国際機関で、新型コロナ危機に直面する中で、財政再建に注力する政治勢力が中心になることはありえない。だが、日本では岸田氏が典型的だが、財政再建を公言する政治家が主流になりがちであり、その流れがそのまま日本経済を長く低迷させてきた人的要因でもあった。

 率直に言って、筆者は菅義偉政権の誕生以外に、現在の日本経済には選択肢はない、と判断している。すなわちアベノミクスを継承し、それを超えていく「スガノミクス」こそが求められる。