線路1キロ当たりの保守費用が増えた理由の一つは、線路の保守費用を節約しすぎた結果、JR北海道で2013年ごろに頻発した列車脱線事故の教訓を受けてのものだ。けれども、老朽化の進行に伴って、年々維持に手間と費用がかかるようになったという側面もやはり大きいと思われる。

 とはいっても、既存の路線を新線に置き換えるのは非常に難しい。香川県の多度津と高知県の窪川を結び、都市間交通を担うJR四国の土讃(どさん)線の例を見てもよく分かる。

 土讃線は国鉄時代に急流の吉野川や穴内川(あなないがわ)に沿って走る琴平-土佐山田間で何度も地滑りや土砂崩壊の被害に遭い、「土惨線」とさえ言われていた。戦後、実に7カ所でルートが変更されて新線へと切り替えられ、今でも警戒は必要なものの、始終災害で不通となる路線からは脱している。

 とはいえ、当時の国鉄にとっても金銭面での負担は大きかった。7カ所のうち、1966~86年に実施された3区間のルート変更の際に築いたトンネルや橋梁、合わせて13・6キロ分だけで約65億円、1キロ当たり約4億8千万円の工事費となった。

 現在の貨幣価値で計算しようとすると、置き換え施工時期が約20年の長期にわたっているため、換算しづらい。当時と比べて、現在は1・2倍程度に上昇していると考えても、1キロ当たり約5億7千万円になる。

 他にも費用はかかるので、結局1キロ当たりの工事費は10億円ほどと見ておかなくてはならない。元来、収支状況の厳しいJRの地方交通線や中小私鉄、第三セクター鉄道にとって、これだけの金額を負担できるところはそう多くはないであろう。

 自然災害の被害に遭うと言っても、土讃線のようにほぼ毎年という路線はそう多くはない。となると、現状を維持したまま線路や施設を使用し続ける方が現実的な方策であろうが、いずれは老朽化の進行で立ちゆかなくなる。線路や施設の寿命は永遠ではないから、21世紀後半以降も使い続けるのであれば、新規の線路や施設への置き換えは避けられない。

 そのとき、鉄道会社には二つの選択肢が与えられる。一つは新しくするか、そしてもう一つは放棄して廃線にするかだ。
観光列車が走るJR土讃線(JR四国提供)
観光列車が走るJR土讃線(JR四国提供)
 これまでとかくローカル線というと、どちらでもなく、これまで通りの状態で営業を続ける方策が選ばれていた。しかし、各地の路線が開業から軒並み120年以上経過するころにはそのような選択肢はもう残されていない。

 線路や施設の基礎部分の老朽化に伴って、今までよりも少ない降雨量や風速で列車を運休させざるを得なくなるのはまだよい方だ。今後は梅雨のような長雨の時期には大事を取って長期運休といった路線も現れるかもしれない。

 新線に置き換えるとして、それでは誰がその工事費を負担するのか。鉄道会社か、国か沿線の自治体か、受益者である利用者か—。今回はここまでは踏み込まず、これから本格的に訪れるであろう大災害時代に予測される鉄道の姿の提示にとどめておきたい。