2020年09月05日 13:03 公開

米誌アトランティックは3日、ドナルド・トランプ米大統領が戦死した米兵を「負け犬」や「まぬけ」と呼び、なぜ国のために命を落とすのか意味が分からないなどと発言を重ねていたと、複数の政権関係者の話として伝えた。これについて複数の報道機関が裏付けを取ったと報道し、大統領への批判が高まるなか、トランプ氏は内容を全面否定している。

トランプ氏が戦死した米兵を嘲笑したり、戦没者墓地への訪問を嫌がったり、負傷兵について「誰も見たくない」などと発言したりしていたという内容は、最初にアトランティックが伝えた。続いて、AP通信米紙ワシントン・ポスト保守派フォックスニュースの記者がそれぞれ、独自に政権関係者から内容の裏付けを得たと報道した。

これに対してトランプ氏は4日の定例会見で、「この国の軍や倒れた英雄たちに否定的な発言を自分がするなど、あり得ない。軍事予算や軍人の給料を自分ほど増やした人間はいないのに」と反論。「ひどい雑誌が作り出した、みっともない状況だ」と批判した。

一方で、複数の退役軍人団体は大統領を批判。進歩派団体「VoteVets(退役軍人、投票を)」は、子供が戦死した複数の家族のビデオを投稿した。「犠牲を払うことの意味を、あなたは知らない」と遺族の1人はトランプ氏を批判している。

「イラク・アフガニスタン帰還兵の会」のポール・リーコフ氏は、記事の内容について「予想外だと、本当に驚いている人などいるだろうか」とツイートした

11月3日の大統領選で、トランプ氏は退役軍人など軍関係者の支持を必要としているため、今回の報道内容が選挙に影響するかもしれないという指摘もある。

どういう発言が報道されているのか

アトランティック誌の記事は、4人の匿名消息筋の話をもとに、トランプ氏が2018年にパリ郊外のアメリカ人戦没者墓地への訪問を中止した理由について、戦没者墓地が「負け犬だらけ」だとトランプ氏が発言していたからだと書いている。

記事によると、トランプ氏は雨で髪が乱れるのを嫌がり、戦死米兵に敬意を払うのは重要ではないと考えていたという。

さらに記事は、このフランス訪問中にトランプ氏が、ベローの森の戦いで戦死した米兵1800人を、「まぬけ」と呼んだと書いている。第1次世界大戦中の1918年6月に米海兵隊が、ドイツ軍のパリ進撃阻止に大きく貢献したこの戦闘は、「ベローウッドの戦い」として、米海兵隊にとって重要なものと位置づけられている。

ホワイトハウスは当時、トランプ氏の墓地訪問中止は悪天候でヘリコプターが飛べなかったからだと説明していた。同様の説明を、ジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も近著で書いている。ボルトン氏は政権を離れて以降、トランプ氏を声高に批判している1人。

また、トランプ氏が希望する軍事パレードをホワイトハウスが計画する際、トランプ氏は負傷兵を行進に参加させないようスタッフに指示し、腕や脚を失った兵士について「誰もそんなものは見たくないから」と述べたと、記事に書かれている。

記事ではほかに、2017年5年の戦没将兵追悼記念日に、ジョン・ケリー国土安全保障長官(後に大統領首席補佐官)と共にアーリントン国立墓地を訪れた際、戦死米兵たちの墓の前でケリー氏に、「分からないな。このみんなはどういう得をしたんだ」と声をかけたとある。目の前の区画には、アフガニスタンで戦死したケリー氏の息子の墓もあったという。

記事によると、海兵隊将軍でもあるケリー氏自身は取材に応じていない。しかし記事は、ケリー氏の友人の将軍による、「(トランプ氏には)自分ではない誰かのために何かをする人間というのが、想像もつかない」のだというコメントを伝えている。

ケリー氏は2018年12月に政権を去った

ホワイトハウスの反論は

トランプ氏はホワイトハウスの定例会見で、報道内容を「フェイクニュース」と呼び、アトランティック記事の情報源はおそらくケリー氏だろうと述べた。海兵隊将軍のケリー氏が、「(ホワイトハウスの)職務のプレッシャーに対応できなかった」のだと批判した。

また5日には、記事を書いたジェフリー・ゴールドバーグ記者を名指しはしないものの、 「えげつないゲスな記者が、もしかして不満分子と協力し、こんなひどい批判をでっちあげた」とツイート。記事内容を独自に確認したと報道したフォックスニュースの記者については、「ジェニファー・グリフィンはこんな報道をして、クビになるべきだ。電話でこちらのコメントをとることさせしてない。フォックスニュースはおしまいだ!」とツイートした

フォックスニュースでは別の記者たちが、アトランティックなどの報道内容を政権関係者が否定してると伝えている。

マイク・ポンペオ国務長官は4日、フォックスニュースに対して、戦没者墓地への訪問中止が問題になっているフランス訪問中、自分はほとんど常に大統領に同行していたが、報道されているような発言は聞いていないと述べた。

マーク・エスパー国防長官は政治ニュースサイト「ポリティコ」に対して、トランプ氏は「この国の軍関係者、退役軍人とその家族を、何より敬愛している」とコメントした。ただし、エスパー氏は報道内容を明確に否定はしていない。

ほかにも、メラニア・トランプ夫人やミック・マルヴェイニー大統領首席補佐官、サラ・ハッカビー・サンダース前大統領報道官が、報道内容を否定している。

トランプ氏と軍人

トランプ氏はかねて、自分は軍関係者から絶大な支持を得ていると主張してきた。米ピュー研究所の昨年調査によると、退役軍人の57%がトランプ大統領を全軍の最高司令官としておおむね支持している。また、退役軍人の6割が、自分は共和党支持者だと回答したという。

トランプ大統領と議会の与党・共和党は、軍事予算を拡大させ続けている。

一方でトランプ氏は2016年の大統領選でも、イラクで戦死した米兵の遺族を批判し、強い反発を呼んだ。

2015年には、ヴェトナム戦争中に捕虜となり拷問された故ジョン・マケイン上院議員について、撃墜されるような兵士は「英雄ではない」、「捕虜になるような人間は好きじゃない」と発言し、これも批判された。2018年にマケイン議員が亡くなった際には、ホワイトハウスが半旗をすぐに戻したことが物議を醸した。

2019年2月までトランプ政権の国防長官だったジェイムズ・マティス海兵隊大将は、トランプ大統領が2018年12月にイスラム過激派勢力「イスラム国」(IS)はシリアで敗れたと宣言し、米軍約2000人を撤退させるといきなり発表した直後に、辞任を発表した。

そのマティス氏は今年6月、トランプ氏の「リーダーシップの欠如」を批判する文章をアトランティック誌に寄稿している。

トランプ氏自身は軍で勤務した経験はない。ヴェトナム戦争中は、5回にわたり徴兵を猶予されている。4回は学業が理由で、1回はかかとの「骨棘(こつきょく)」形成が理由だった。骨棘とは、関節の軟骨が硬くなり、「とげ」のようになったもの。

民主党からの批判

退役軍人の批判に加え、大統領選をトランプ氏と争う野党・民主党のジョー・バイデン前副大統領は、トランプ氏は国を率いる「資格がない」と批判した。

「もしこの記事が本当なら、そして過去の発言に照らせばどうやら本当のようだが、まったくもって決定的にひどい。あまりにみっともない」と、バイデン氏は述べた。また、「私の息子はまぬけではなかったし、息子が軍で共に奉仕した人たち、特に帰国しなかった人たちは負け犬ではない」と怒りを込めて強調した。2015年に病死した長男のボー・バイデン氏は、陸軍将校としてイラク戦争に従軍していた。

その上でバイデン氏は、記事内の発言が本当ならトランプ氏は、戦地で子供を失った全ての母親や父親、軍に家族がいるすべての人たち、「おとしめて侮辱したすべての家族」に謝罪すべきだと述べた。

バイデン氏自身はヴェトナム戦争中、学生として徴兵を5回猶予された後、入隊のための健康診断の結果、10代のころのぜんそくが原因で軍務に不適格と判定された。

イラク戦争で両脚を失ったタミー・ダックワース上院議員(民主党、イリノイ州選出)は、「自分のエゴのために米軍を使うのが好きな人だ」とトランプ氏を批判した。ダックワース氏は陸軍のヘリコプター操縦士としてイラクで勤務中の2004年、ヘリの墜落で両脚を失った。

息子をイラク戦争で失い、2016年民主党全国党大会でトランプ氏を批判したところ、トランプ氏に逆に攻撃されたキズル・カーン氏は、「私たちが口にする言葉は、それぞれの魂の中身をのぞかせてくれる窓だ。なので、他人のために自分の命を捧げる人をドナルド・トランプが『負け犬』と呼ぶとき、私たちはトランプの魂の状態を理解する」と話した。

(英語記事 Trump panned over reports he called US war dead 'losers'