牟田学(電子政府コンサルタント、JEEADiS理事)

 「デジタル国家」として知られるエストニアは、1991年にソ連崩壊の過程で平和裏に独立を回復した後、四半世紀以上の時間をかけて、電子政府や医療のデジタル化(eヘルス)を進めてきた。

 その結果、現在は国連の「世界電子政府ランキング」、米人権団体フリーダムハウスの「自由度報告書」、欧州連合(EU)の「デジタル経済社会指数(DESI)」デジタル公共サービス部門、エストニア政府の国家サイバーセキュリティー指数(NCSI)などのランキングでは上位国である。

 医療分野を含め、個人番号にひも付けされた国民の個人データを政府が管理・活用するエストニアだが、政府に対する国民の信頼度はあまり高くない。経済協力開発機構(OECD)の定期調査によると、政府を信頼する国民の割合は平均以下の30~40%前後で、日本とあまり変わらない。その一方で電子政府やデジタル国家に対する信頼度は高く、ノルウェーの調査会社、ノルスタットが行った最近の調査では「エストニア人の76%がエストニアのデジタル国家を誇りに思っている」ことが分かっている。

 国民の多くがデジタル国家を信頼しているのには理由がある。それは、徹底した透明性と公平性だ。

 政治家や公務員、医師、警察官、裁判官など公共分野で働く人は、国民IDカードや電子署名がなければ仕事ができない。誰が、いつ、何のために、誰の個人データにアクセスしたかは、デジタル国家によって記録、監視され、政府内部の人間でも記録を改竄(かいざん)することはできない。国民も、誰が自分の個人データにアクセスしたかをオンラインで確認し、不審な点があれば通報できるようになっている。

 2020年に入り、欧州で新型コロナウイルスが猛威を振るう中、エストニアでも2月27日に最初の感染例が確認された。3月初めには、サーレマ島で開催されたスポーツイベントで、国内最大の集団感染(クラスター)が発生した。その他の地域でも感染者の増加が確認されたことを受け、政府は3月12日に緊急事態宣言を発令した。
エストニアのサーレマ島(ゲッティイメージズ)
エストニアのサーレマ島(ゲッティイメージズ)
 コンサートやスポーツなどのイベントは中止になり、学校の授業は遠隔学習と家庭学習に切り替えられた。映画館やスポーツジムも閉鎖され、バーやカジノ、スロットなどの営業も禁止となり、レストランは持ち帰りと配達のみの営業が許可された。国外からの入国だけでなく、離島から本土への移動も制限された。