2020年09月11日 14:19 公開

欧州連合(EU)は10日、ボリス・ジョンソン英首相が前日に提出した離脱協定の一部変更法案を「9月末までに」取り下げるようイギリス政府に要請した。英・EU間の通商交渉を損なう恐れがあるとしている。

イギリス政府は9日、新しい国内市場法案を提出。1月に調印した離脱協定の一部を変更する内容となっている。

離脱協定はブレグジット(イギリスのEU離脱)時点で国際法となっているため、この法案を可決するとイギリスは国際法に違反することになると、EUは反発している。

EUは、この法案が「信用を著しく損なう」もので、もしイギリスがこの法案を通せば法的措置も「いとわない」としている。

これに対しイギリス政府は、議会主権のもとでは国際条約の取り決めに反する法案であっても可決できると述べている。

イギリスは今年1月31日にEUを離脱した。現在は移行期間に入っており、EUとの通商協定の交渉期限が年末に控えている。それまでに合意がなければ、イギリスとEUの貿易は世界貿易機関(WTO)のルールに沿って行われることになる。

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ジョンソン首相が提出した国内市場法案では、離脱協定内の「北アイルランド議定書」について変更が必要だと示唆している。

この議定書は、イギリスの北アイルランドと、EU加盟国のアイルランドとの間の陸続きの国境に厳密な通関検査を復活させないための取り決め。議定書の詳細は現在もEUとの間で交渉が続いている。

しかし法案では、北アイルランドとブリテン島の間に新たな検査を設置しないと記されている。この法案が可決すれば、イギリスとEUが独自の通商協定を結べなかった場合に適用されるWTOの通商ルールに、イギリスが一方的に修正を加えたり、「非適用」を決められる。

法案が提出された直後、イギリスのマイケル・ゴーヴ内閣府担当閣外相は欧州委員会のマロシュ・シェフチョビッチ副委員長と緊急会談を行った。

この会談後に発表した声明でEUは、離脱協定には法的な責務が伴っていると強い語調で警告。「EUもイギリスも、この協定について一方的に変更、修正、意訳、無視、非適用を決めることはできない」と指摘した。

また、国内市場法案が北アイルランドの平和を守るものだとするイギリスの主張についても、「正反対のことをしている」と一蹴した。

シェフチョビッチ副委員長は、この法案が可決されれば、離脱協定と国際法の「極めて深刻な違反」に当たると述べた。

その上でイギリスに対し、「9月末までに」この法案を取り下げるよう要求。「離脱協定には、法的責務を果たさなかった場合についてさまざまなメカニズムや法的解決法が記されている。EUはこうした措置に踏み切ることをいとわないだろう」と話した。

EUの反発に対しイギリス政府は、「誠実に通商に伴う義務を果たしていく」と述べた一方、「我々が置かれている困難で非常に例外的な状況においては、議会主権という基本原則を思い出すことが重要だ」と説明した。

「国内法について議会は主権を握っており、イギリスの条約に反する法案でも可決できる。議会がこうした法案を支持するのは、憲法に反する行為ではない」

「条約に関する義務は、国内法内に定められている限りにおいてのみ拘束力がある。法案の内容やその可否については議会だけが裁量を持つ」

与党・保守党からも批判の声

ゴーヴ内閣府担当閣外相は会談後、「この法案を取り下げることは絶対にないと明言した」と説明。政府は「真剣にこの法案を考えている」と述べた。

国内市場法案は週明け14日から議会で審議される予定だが、すでに与党・保守党議員からも批判の声があがっている。

元党首のハワード卿は、この法案がイギリスの「誠実さと、法の統治への敬意についての評判を落とすだろう」と懸念を表明。財務相経験のあるレイモント卿も、閣僚に「再考すべき」だと訴えた。

しかしゴーヴ氏は、「来週の審議を楽しみにしている。政府はそこで、なぜこの法案が必要なの詳細を述べる機会がある」と話した。

また、「北アイルランドと残りのイギリスとの間に物流の滞りがないよう」戦っていくと述べた。

「信用問題に関わる」

ジョンソン首相は9日にこの法案を提出した際、「イギリス国内市場の統一感を保障する」ものだと説明。スコットランドとウェールズに権利を委譲する一方で、北アイルランドの和平プロセスを守るものだと述べた。

しかし、ブランドン・ルイス北アイルランド担当相が「この法案は確かに、きわめて特定的で限定された形で、国際法に違反する」と答弁したため、イギリスの国際的な評価をおとしめることになるとの批判が噴出した。

こうした中、ロンドンでは英・EUの通商協定をめぐる協議が行われた。

EUのミシェル・バルニエ首席交渉官は、EU側は「解決策を見いだすため」に「柔軟性を示した」ものの、イギリス側が「いくつかの重大な問題」について「乗り気でなかった」と述べた。

また、「現在もこれからも、信用や確信が鍵となる」とくぎを刺した。

イギリス側のデイヴィッド・フロスト交渉官は、「困難な領域が残っており、その相違はなお大きい」と話した。

その上で、10月半ばまでの合意形成に「引き続き腐心する」と述べた。

(英語記事 EU ultimatum to UK over Brexit talks