上久保誠人(立命館大政策科学部教授)

 安倍晋三首相が、持病の再発を理由に辞任する意向を表明して2週間余り。関心は次期総裁・総理に移っているが、まずは通算、連続ともに在職日数が歴代最長に達するという長きに渡り、内閣総理大臣として日本を率いてきた安倍首相に、心からお疲れさまでしたと申し上げたい。

 首相の激務による疲労は想像を絶するものだろう。まずは、治療に専念していただきたい。1日も早く健康を回復してほしいと思う。

 9月14日に行われる自民党総裁選は、国会議員394票と党員・党友394票の過半数を争い、選挙期間を12日間以上設ける通常のやり方と、国会議員394票と都道府県連票141票として両院議員総会で決める「緊急のやり方」の2通りがある。そして、今回は結局後者となった。

 だが、これは安倍首相が嫌っているとされる石破茂元幹事長を潰すために、周りが「忖度(そんたく)して」総裁選出ルールを都合よく解釈する「権力の私的乱用」を行ったということだろう。

 安倍政権では、これまで何度も、首相やその周辺が権力を自らに都合よく「私的乱用」すると批判されてきた。いわゆる「モリカケ」問題、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)の「日報隠し」、裁量労働制に関する厚生労働省の不適切な調査データの問題、首相主催の「桜を見る会」の問題、そして検察官の定年延長を可能とする検察庁法改正案問題と、疑惑や不祥事が多数あった。

 その都度、官僚の忖度による隠蔽や公文書偽造、資料破棄、首相に都合のいい法律の突然の解釈変更が次々に起こった。国会では、閣僚や官僚の答弁が支離滅裂となり、二転三転した。首相やその周辺を守るために、官僚は平気で使い捨てられてきた。

 安倍首相は辞任表明の記者会見で、次期総裁やその選出方法について、「執行部にお任せしているので私が申し上げることではないと思うし、誰がということも、私が申し上げることではないだろう」と述べた。だが、いざふたを開けてみると、首相の「石破嫌い」に忖度して、周囲が一斉に動き始めた。

 「ポスト安倍」について「全く考えていない」と言い続けてきた菅義偉(よしひで)官房長官が、首相の会見翌日に二階俊博幹事長と会談し、総裁選への出馬の意欲を伝えた。二階氏は「頑張ってほしい」と応じ、二階派が菅氏を支持することになった。

 支援する意向を固めた二階氏は「政治の停滞は一刻も許されない。一日も早く後継総裁を決めることが必要」とメディアに発言した。さらに、「党執行部が、党員投票を省いた両院議員総会で総裁選を行うことで調整中」という情報が永田町を駆け巡った。

 菅氏は、麻生太郎副総理兼財務相、細田派の細田博之会長と次々と会談した。麻生派、細田派が菅官房長官への支持を決定し、「コロナ禍という緊急事態だ。安倍路線を継続すべし」という流れが、あっという間に党内に広がった。総裁選出馬が取り沙汰されたり、意欲を示していた河野太郎防衛相、西村康稔(やすとし)経済再生相、稲田朋美幹事長代行らが、次々と不出馬表明した。
総務会に臨む(左から)下村博文選対委員長、鈴木俊一総務会長、二階俊博幹事長、岸田文雄政調会長=2020年9月1日、東京・永田町(三尾郁恵撮影)
総務会に臨む(左から)下村博文選対委員長、鈴木俊一総務会長、二階俊博幹事長、岸田文雄政調会長=2020年9月1日、東京・永田町(三尾郁恵撮影)
 9月1日の自民党総務会では、通常より長い1時間40分ほど議論が行われ、党員投票を行うべきだという意見が出たようだった。総務会メンバーではない小泉進次郎環境相がオブザーバーとして出席し、党員投票を求めるべきだと発言したという。