2020年09月12日 20:42 公開

エマ・ハレット、BBCニュース

ソーシャルメディアの世界で求められる美の基準が、ますます厳しくなっている。その基準についていこうとする人には、インスタグラムのフィルター機能が人気だ。

若い女性を支援するイギリスの団体「Girlguiding」が最近調査したところ、少女や若い女性の3割が、外見を変えるフィルターを使っていない自分の写真を、オンラインに投稿するなどあり得ないと考えていることが明らかになった。

11歳~21歳の回答者1473人のうち39%は、現実の自分がオンラインの自分のような外見になれないのは、不愉快だと答えている。

メイクアップ・アーティストでモデルのサーシャ・パラリさん(28)は、まさにこの調査結果と同じようなことを心配している。

パラリさんは最近、インスタグラムで「もっと本当の肌」を見せ合おうと、ハッシュタグ「filterdrop」(フィルターを外そう)を立ち上げた。

「これがどれだけ危険なことか、気付いてる人はいるの?」と思ったのだと、パラリさんは言う。世界的な美容ブランドの製品を宣伝するインフルエンサーの写真が、フィルター加工されていた。大手ブランドはその加工された写真を、リポスト(再投稿)していた。それを見たとき、パラリさんは「これは危険だ」と思ったのだという。

「子供がソーシャルメディアで見るもののせいで、劣等感を抱いて大きくなるなんて、そんなことはあってはならないと思う」

英ブリストル出身のパラリさんは自分のインスタグラムで、思いをぶちまけた。これが大反響だったため、ハッシュタグ「filterdrop」キャンペーンを立ち上げた。

「そこからの反応は凄まじかった。大勢が次々に写真を投稿してくれて、リアルで正直な写真がどんどん並ぶ様子は、本当にすごかった」

パラリさんは引き続き、フィルターを使っていない自分の写真をインスタグラムにアップするよう呼びかけている。

「自分の外見よりも自分自身を大事にして欲しい」

「普通の肌を見る機会が少なすぎる」と、パラリさんは言う。

「私にとっては、ノーメイクやフィルターなしの写真をアップするのは特別なことではありません。でも今回やってみた人の中には……(中略)出産より怖かったとまで言う人もいました」

小学校教師のケイティ・マグラス(29)さんは、1年ほどソーシャルメディアでパラリさんをフォローしてきた。

南ウェールズ・クンブラン出身のマグラスさんは、毎晩インスタグラムをスクロールして眺めていた。その習慣が自分の職業にも関わってくることになるとは思いもしなかったが、今年の夏にはそれが現実になった。

「ロックダウン(都市封鎖)期間の終了間際に、子供の行動の変化が心配だという保護者のメールを受け取りました」

「そのメールによると、子供が自分の見た目が気に入らないと言っていると。あぜんとしました。だってその子は4歳。たった4歳ですよ」

「それからどんどん悲しくなってしまいました。こんなに小さい子が、自分の外見を気にするようになっているなんて」

マグラスさんは、その女の子がソーシャルメディアのメイク講座を見ていたことも知らされた。

「メイクをしていない自分の顔が嫌いだと、髪の色を変えたいと私に言ってきました」

「そんな時に、ハッシュタグ『filterdrop』が出てきて、私は救われたんです。投稿内容をもとに、自分に自信を持つことの大切さを、生徒に話せると思えるようになりました」

すると、4歳の女の子はマグラスさんに、では先生はどうして毎日メイクをしているのか質問してきた。聞かれたマグラスさんは、どう答えていいか分からなかった。

そこで翌週、マクグラスさんは「ありのままの素顔」で学校へ行った。「サーシャのハッシュタグで自信が持てるようになったおかげです。それがなければ、素顔で職場に行くなんて無理でした」。

パラリさんのキャンペーンでは、、数百人もの女性がハッシュタグをつけて自分の体験を投稿している。マグラスさんはその1人だ。

加工されたセルフィー(自撮り写真)の悪影響は、自分だけで立ち向かうには「大きすぎる」問題だと、パラリさんは当初そう思っていた。しかし、自分が立ち上げたハッシュタグへの大反響によって、逆に自分が力を与えられたという。

パラリさんが「#filterdrop」ハッシュタグをつけてインスタグラムに載せた動画を見た人数は、すでに約5万人に達している。

パラリさんのもとには賛同する人たちのメッセージが殺到している。フィルターを使用しないよう言われるまで、自分がどれほどフィルターに執着しているのか気付かなかったという人ばかりだ。

子育てをしながら英国民保健サービス(NHS)で働くグラスゴー出身女性(33)は、3年ほど前に他人が自分の写真を撮るのを断るようになった。フィットネスや美容のインフルエンサーが発信する情報をたくさん見たり、フォローし始めた頃と重なっていたという。

「私は本当に、サーシャを応援する1人になりたかったけど、自分のカメラを開いた時にわっと涙があふれてきたんです。自分を見つめ返してくる人間を、気持ち悪いと感じてしまって」と、女性は明かした。

「自分のこの写真がほかの人たちに評価されたり、とことん修正された顔写真と比較されると考えたら、もう耐えられなくて」

この女性は、過去に肉体的、精神的、心理的虐待を受けたことがあると話した。その上で、「私のように感じている人はすごく沢山います。フィルターに頼りきっていて、やがて身体醜形障害(自分の身体や美醜に極度のこだわる症状))になりかねない」とも述べた。

「イギリスは国を挙げて、心の健康を重視していると言われます。不健全なまでに加工された容姿のイメージが若者に悪影響を与えかねないのに、この危険に気付いていなかったなど、そんな言い訳は成り立ちません」

同じようにパラリさんをフォローするジア・ハッチングスさん(27)は、「サーシャがインスタグラムでfilterdropキャンペーンのことを共有し始めて、私もそれこそ自分の顔が大嫌いなんだって気付きました。メイクしない顔も、フィルターを使っていない顔も」と明かした。

「完璧な肌に完璧な鼻、完璧な体形のかわいい女の子やモデルを、ソーシャルメディアでたくさん見ていました。私にはそばかすや日焼けによる色素沈着があるし、出産も経験しているので」

「初めは参加する勇気がありませんでした。ところがある夜、いきなり強烈に自覚したんです。自分は自分の素顔が怖いんだって」

「私には1歳半の娘がいます。自分自身がメイクやフィルターなしの自分の顔写真をシェアできないのに、いったい娘にどうやってありのままの自分を大事にして欲しいなんて言えるのか。そう思うと胸が張り裂けそうでした」

パラリさんは、ハッシュタグ・キャンペーンを通じて3つの成果を期待している。

1つ目は、英広告基準協議会(ASA)がソーシャルメディアのインフルエンサーに対して、化粧品を宣伝する際に加工フィルターの使用有無を明記するよう求めること。

2つ目は、インスタグラムが顔を修正するフィルターやモーフィング・フィルターの機能を削除すること。

そして3つ目は「インスタグラムでもっと沢山の素顔を見られる」ようになることだ。

「フィルターを使用していることが明示されていない場合が多いので、みんな『なんで私はあんなふうに見えないの?』って思ってしまうんです。彼らは真実を販売していないので」

パラリさんはフィルターが完全になくなることを望んでいるわけではないが、顔を変形させるモーフィング・フィルターの中には、「許されるべきではない」ものもあると話す。

「最近見つけたものの中に、私の鼻や顔を細く加工するのがありました。すごく本物っぽい仕上がりでした」

「自分の鼻が大きいと思ったことはないけど、その画像を見て『大きいのかもしれない』って思いました。(中略)だから、もっと自信のない人は、どれほどのダメージを受けてしまうことか」

「私たちには、自分自身でソーシャルメディアを変える責任があります。投稿内容は自分で選んでいるのですから」

「フィルターを使っているなら、そう言わなくてはならない。そういう風に変われば、悪循環は止められるかもしれません」

パラリさんは、フィルターを使用している企業を「名指しして恥をかかせ」たいわけではなく、フィルターを使用したり、フィルターで加工した画像をリポスト(リグラム)しているブランドに直接メッセージを送っている。

反応は様々だという。

ASAはパラリさんから連絡を受けた後、インスタグラム広告にフィルターを使うことで「化粧品の効果を誤解を招くほど誇張」しているかどうかを調査していると認めた。

ASAは、「インフルエンサーが編集済みのスタイリングを広告に使用するのは完全に合法だが、フィルターが商品効果を誤解を招くほど誇張しないことも重要だ。我々はいずれ調査結果を公表する」と付け加えた。

フィルターが及ぼす悪影響についてインスタグラムにコメントを求めたところ、同社は社会的圧力を軽減する対策に取り組んでいると説明。他人と比較する風習を最小限にとどめるため、試験的に「いいね」機能を削除したり、「必要に応じた」方針を講じるために検索内容や傾向を調査するとしている。

インスタグラムは声明で、「我々はAR(拡張現実)エフェクトを使ってクリエイターが自分自身を表現でき、かつARを安全で前向きなものにしたいと考えている」、「そのため、インスタグラム上での顔修正エフェクトの使用を認めているが、エフェクトギャラリー内では推奨していない」と述べた。

このコメントを受け、パラリ氏は「顔を変えたりするフィルターがどれほど危険か、まだ十分に認識されていなくて残念です。エフェクトギャラリーに表示されているかどうかは関係ないのに。こうしたフィルターは今も、『美しい』(beautiful)などの簡単な言葉を打ち込むだけですごく簡単に見つけることができる状態です」と語った。

「特に大勢のフォロワーを持つクリエイターやインフルエンサーたちほど、フィルターをよく使っています。フィルター自体を検索する以上に、こうした人たちのストーリーを通じて、より影響を受けやすい人たちにフィルターが広まっています」

「5秒もかからず鼻を細くすることが、私たちの自信にどれだけ多大なダメージを与えているのか。重大性への理解が広がり、各社が速やかに責任ある対応をとるよう願っています」

(英語記事 'We just don't see enough normal skin'