竹嶋渉(元在韓ジャーナリスト)

 安倍晋三首相が8月末に辞任する意向を表明し、水面下でさまざまな駆け引きが繰り広げられた結果、9月14日に行われた自民党総裁選で勝利した菅義偉(よしひで)氏が16日に新首相に就任した。

 振り返れば、在任期間が憲政史上最長となった安倍首相だが、この約8年間の日韓関係に注目すると、決して平坦ではなかった。

 今回の安倍首相の辞任を機に、戦後最悪と言われた日韓関係も改善に向かうのではないか、少なくとも何らかの肯定的な変化はあるのではないか、と期待する声も日韓の一部にある。先に結論から言ってしまうと、そんなことはあるわけがない。「安倍政権下では日韓関係にろくなことは起こらなかったし、次期政権下でもろくなことは起こらない」というのが私の持論である。

 こう述べると、日本人からも韓国人からも「それは極論だ」「何らかの変化はあるはずだ」などという反論が提起されるのが常である。しかし、私から言わせれば、それこそ根拠なき楽観論に基づいた希望的な観測にすぎない。本稿では「安倍首相辞任に伴う日韓関係改善」というものが、いかに非現実的な幻想であるか、その根拠を論じたいと思う。

 そもそも、安倍首相の就任前から、日韓間には領土、歴史教科書、靖国神社参拝、従軍慰安婦、徴用工の補償など数々の問題があった。このうち従軍慰安婦問題は、安倍政権下で悪化し、従軍慰安婦の少女像(韓国では「平和の少女像」と呼ばれる)が日本大使館や領事館、韓国の各地、世界各国にまで建立され、新たな火種となった。

 また、徴用工の補償問題では、韓国の最高裁判所にあたる大法院の判決によって、補償に応じない日本企業の資産が差し押さえられたことも記憶に新しい。これらの問題に対する日本政府の立場は一貫して、戦後補償は1965年の日韓基本条約で解決ずみ、加えて2015年の慰安婦問題日韓合意で不可逆的に解決ずみ、というものである。

 日本企業の資産差し押さえと時を同じくして、日本政府は半導体材料の韓国向け輸出管理を厳格化したが、これを韓国は「輸出規制」「貿易報復」だと猛反発。官民挙げての反日運動が推進され、日本に卑劣な戦争でも仕掛けられたように極度に興奮した揚げ句、すさまじいばかりの日本製品不買運動、日本旅行自粛運動が巻き起こった。

 韓国では、こうしたイザコザは、基本的にすべて日本に責任があると考えられており、特に安倍首相(通常、報道などでも「アベ」と呼び捨てにすることが多い)に大元の原因があると考えられている。ゆえに、韓国では、安倍首相の辞任を機に日韓関係が改善するだろう、などと能天気な期待が寄せられたのだ。
韓国の文在寅大統領=2017年7月、韓国・平昌(聯合=共同)
韓国の文在寅大統領=2017年7月、韓国・平昌(聯合=共同)
 韓国紙の毎日経済(8月30日付)には、4人の「日本専門家」が安倍首相辞任を受けて今後の日韓関係を展望する、という記事が掲載された。記事の冒頭では、「国家首脳が変われば外交政策全般を再点検し、周辺国との友好関係を追求する傾向がある」「安倍首相が主導したことで知られる韓国の輸出規制措置の撤回に期待できるという声も出ている」などと期待をにじませている。

 では、この記事を引用しつつ、安倍首相の辞任をめぐる韓国人の反応を見渡してみよう。