コロナが上陸して以来、政府は対応が後手に回った。クラスターが発生したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」では、船の構造が3密そのもので、船内待機が始まる前に乗客への感染は広がっていたことが現在では分かっている。ただ、検査キャパシティの制約から、感染状況は少しずつしか明らかにならず、結果的に行政がみすみす感染拡大を許しているように映った。また、船内で業務に従事した内閣官房や厚労省の職員らの感染が相次いだ。

 不評を挽回しようと官邸は、2月末に小中高校や特別支援学校の一斉休校を決め、4月には布マスク2枚の全戸配布に踏み切った。だが、マスクを配り終えるのには2カ月半を要し、260億円もかけた感染拡大防止策としては効果が薄かった。

 これらが問題なのは、トップダウンの演出を重んじるために担当省庁や専門家の知識や経験というフィルターを経ていない生煮えの対策であったこと、そして危機が終息していないことを理由にして、現在も十分な検証が行われていないことだ。

 本来、危機管理の意思決定には迅速さが要求される。だから、通常のプロセスから余分な部分をそぎ落とすが、当然ながら決定にあたって専門家の知見を踏まえなければならず、そうした根幹のルールをそぎ落としてはいけない。このような幹があいまいになっていたせいで前政権は悪循環を断ち切れず、退陣の遠因を自らつくったのではないかと私は思う。

 注目しておきたいのは、7月22日に開始した観光事業支援の「GoToトラベル」だ。場当たり的な采配に批判が多いことを意識する西村康稔(やすとし)経済再生相は「専門家のご意見を伺って決める」と繰り返していたのに、この事業では7月10日に前倒し実施が先に発表され、同月16日に政府が専門家に認めさせる経過をたどった。決めたのは「観光のドン」こと自民党の二階俊博幹事長に背中を押された菅氏自身だとされる。

 この判断の問題は、ここまでと同じ、生煮えのままの決定を繰り返していることだ。
横浜・大黒ふ頭に停泊するクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」から離れる陸上自衛隊富士病院の救急車=2月14日(鴨川一也撮影)
横浜・大黒ふ頭に停泊するクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」から離れる陸上自衛隊富士病院の救急車=2020年2月14日(鴨川一也撮影)
 高齢者が見知らぬ人たちと集まるバス旅行に出ていれば、クルーズ船の船内環境と同じになる。そうした懸念から、分科会は土壇場で「若者の団体旅行、重症化しやすい高齢者の団体旅行、大人数の宴会を伴う旅行は控えること」という文言を盛り込んだが、本来は大方針を決めるまえに踏まえておくべき知見だっただろう。

 また、菅氏は9月11日の会見で、GoToトラベルの利用者は少なくとも延べ780万人で、判明している感染者は7人にとどまっていると強調したが、これも検証が要る。

 新型コロナウイルス対策は、不確実な対処の連続で、完全な対策をとることは難しい。科学的分析と、経済再生のバランスをとった危機管理のためには、専門家の知識はもちろん、霞が関と地方自治体と民間の総力を結集して新しい経済構造をつくり上げなければならない。

 「縦割りの打破」を掲げるならば、菅氏は官房長官時代のやり方を変える必要がある。さもなくば、やがて同じ轍(てつ)を踏み、政権の足元を揺るがすことになるだろう。