北朝鮮は国連加盟国の中でわが国が唯一国交を有していない相手であり、有効なチャンネルの開拓が外交の第一歩となる。米朝間にも国交はないが、北朝鮮が国連代表部を設置しているため、「ニューヨークチャンネル」が機能する。安倍総理は、トランプ大統領に対して北朝鮮との窓口を紹介してくれるよう直接依頼したと言われるが、日朝の膠着(こうちゃく)状態が続いた安倍政権終盤には平壌中枢部につながるチャンネルすら持てずにいたということなのだろうか。

 もっとも、米朝首脳が対座しても金正恩政権は容易には核兵器を手放そうとせず、対北朝鮮外交の難しさが再認識された。とはいえ、対話しないことには何も始まらない。相手が対話に応じてこない、不誠実だと主張すれば、国民の理解は得られるかもしれないが、それは問題解決とは異なる次元の話である。

 小泉総理は懸案解決のためであれば相手の主張にも耳を傾けた。「拉致は日本政府の捏造(ねつぞう)劇」だという北朝鮮の主張を180度転換させて、さらには謝罪に追い込むために、日本による過去の植民地支配に対して「痛切な反省と心からのおわびの気持ち」を表明し、国交正常化まで約束したのである。拉致被害者家族の帰国を実現するために再訪朝も断行した。

 一方の安倍総理は長期安定政権かつ、保守的ゆえに自国民を説得しやすいという利点を生かすことができなかった。第1次安倍政権を含めば延べ8年7カ月もの時間があったにもかかわらずだ。

 拉致被害者のみならず、残留日本人、日本人配偶者を含む「全ての日本人」に関する全面的な調査が約束された14年5月の「ストックホルム合意」という画期的な外交成果もあった。

 外務省では北朝鮮情勢と日朝関係を所掌する北東アジア第二課も発足した。安倍総理はトランプ大統領、習近平国家主席、文在寅大統領を通じて、わが国が拉致問題を重視していることを金正恩委員長に伝えている。

 今後日本の総理が求められるのは、北朝鮮に対し自らの言動でもって日本との関係改善に大きなメリットがあることを理解させることである。ただ筆者のような外野がとやかく言おうとも、この問題に対する明確な処方箋は誰も有していない。対北朝鮮外交は総理の専権事項であり、その決断に期待するほかない。
北朝鮮による拉致問題の解決を願う「国民大集会」で、握手する安倍首相と横田めぐみさんの母早紀江さん(中央右)=2019年5月、東京都千代田区
北朝鮮による拉致問題の解決を願う「国民大集会」で、握手する安倍首相と横田めぐみさんの母早紀江さん(中央右)=2019年5月、東京都千代田区
 菅新総理が今回就任したことで、これまでの安倍総理に代わる新たな北朝鮮外交が展開されるべきだろう。ただ実際に物事を進めようとすれば、理不尽さや不愉快さを伴うだろう。

 しかし北朝鮮で暮らす大勢の日本人配偶者も含め、日本人の生命と人権を守るという覚悟を持って進めていただきたい。「最も重要なことは結果を出すこと」であり、パフォーマンスで「やってる感」を演出する必要はない。