2020年09月20日 10:37 公開

米連邦最高裁のルース・ベイダー・ギンズバーグ判事が87歳で死去したことを受け、大統領選を目前にして後任人事をめぐり与野党の攻防が激化している。ドナルド・トランプ米大統領は19日、後任人事を「遅滞なく」進める国民への義務があるとツイッターで書いた。また支持者を前に、来週にも女性を後任に指名するつもりだと述べた。最高裁判事の任期は終身制で、最高裁の判断はアメリカの国民生活に大きな影響力をもつため、その構成が、圧倒的に保守寄りになるかどうかが問われている。

トランプ氏はツイッターで、「我々は誇り高く自分たちを選んでくれた人たちのために決断をするべく、この重大な権力の地位につけられた。特に重要な決断は以前から、最高裁判事の選考だとされてきた。我々には遅滞なくこの義務を果たさなくてはならない!」と書いた。

またトランプ氏は同日、ノースカロライナ州で開いた支持者集会で、「来週になったら候補者を指名する。女性になる」と述べた。「女性にするべきだと思う。実際、男性よりずっと女性が好きなので」。

1人の大統領が4年間で、最高裁判事を3人も決めるのはきわめて異例。トランプ氏は、人工中絶に反対する2人の女性の連邦控訴裁判事を念頭に置いているとみられている。

最高裁の史上2人目の女性判事で、女性や少数者の権利を強力に擁護したギンズバーグ判事は18日、すい臓がんのため亡くなった。最高裁によると、ワシントンの自宅で家族に囲まれて息を引き取ったという。

アメリカの代表的なフェミニストでリベラルだったギンズバーグ判事の死去を悼み、最高裁の前には大勢が集まり、静かに黙祷(もくとう)を捧げたり、「アメイジング・グレイス」や「イマジン」を歌うなどしていた。

米公共放送NPRによると、ギンズバーグ判事は亡くなる数日前に孫娘に声明を口述。その中で判事は、「新しい大統領が就任するまで、私の後任人事が行われないよう、激しく切望しています」と述べたという。

一方で、ミッチ・マコネル上院院内総務(共和党)は声明で、ギンズバーグ判事の訃報に哀悼の意を示した上で、上院は大統領選の前でも、トランプ大統領が指名する最高裁判事候補について採決することになると表明した。

これに対して、野党・民主党の大統領候補、ジョー・バイデン前副大統領は、「はっきり申し上げる。大統領は有権者が選ぶべきで、上院が検討する判事候補は大統領が選ぶべきだ」と反論した。

現在の米最高裁は長官を含む計9人の判事が5対4で保守多数となっている。トランプ大統領はこれまですでに、保守派判事2人を最高裁に送り込んでいる。ギンズバーグ判事の後任も保守派になった場合、最高裁判事の構成が6対3で圧倒的に保守寄りになる可能性がある。アメリカの連邦最高裁は、人工中絶や同性結婚の合法化など、国民生活の多岐にわたり影響を与える判断を示すことがあるため、最高裁判事の構成は個々の大統領の任期を超えて、長く米社会に影響を及ぼすことになる。

最高裁はこのほか、連邦政府や州政府との関係や、連邦政府の政策に対して、重要な法的判断を下す。あるいは死刑執行の差し止めの是非も最終的に判断する。

特に、人工中絶や同性婚の可否は、アメリカで保守派とリベラル派を深く分断する社会的課題なだけに、大統領選を目前にした今、大きな争点となっている。

近年の最高裁は、同性婚の合法性を全米50州で認めたほか、トランプ政権による一部の国からの入国停止措置の合法性を追認。ほかには、気候変動対策としての炭素ガス排出計画の差し止め請求を認めるなどした。激しい接戦で結果がなかなか判明しなかった2000年大統領選の際には、最高裁がフロリダ州の再集計を差し止め、その結果、ジョージ・W・ブッシュ氏が当選した。

大統領選の年に最高裁判事を新しく指名・承認することの是非については、2016年に当時野党だった共和党が、審議拒否したという経緯がある。当時のバラク・オバマ大統領は、保守派のアントニン・スカリア判事の死去を受けて2016年3月に、穏健派のメリック・ガーランド氏を指名したものの、共和党は大統領選の前に新しい最高裁判事を決めるべきではないと、上院司法委の承認審議をいっさいしなかった。一方で現在与党の共和党は、大統領選を目前に、トランプ氏が指名する保守派判事について審議する姿勢を示している。

ガーランド判事の承認審議を拒否した2016年当時、共和党のマコネル議員は、「次の最高裁判事の選考について、アメリカ国民が意見を表明すべきだ。そのため、大統領選で次の大統領が決まるまで、この空席を埋めるべきではない」と主張していた。

現在のマコネル院内総務は、共和党が多数を占める上院が、共和党の大統領の指名をもとに承認を審議するのは当然だという姿勢を示している。一方の野党・民主党は、4年前のマコネル氏と同じ主張を強硬に掲げている。

民主党のチャック・シューマー上院院内総務はあえてマコネル氏と同じ表現を使い、「次の最高裁判事の選考について、アメリカ国民が意見を表明すべきだ。そのため、大統領選で次の大統領が決まるまで、この空席を埋めるべきではない」とツイートした。


<分析> 人工中絶の権利が問われている――ローラ・トレヴェリアン、BBCワールドニュース・アメリカ

ルース・ベイダー・ギンズバーグ判事が亡くなったことで、ただでさえ揺れ動く大統領選がさらに不透明になった。これまでも両党の候補は女性票を得ようと熾烈(しれつ)に争ってきた。それがここへきて、アメリカの女性が人工中絶を本人の判断で受けられるかどうかが、選挙の主要争点として一気に再浮上したのだ。

全国的に女性の人工中絶権を認めた歴史的な「ロー対ウェード」判例(1973年)の今後が、判例が維持されるのかそれとも覆されるのか。これがあらためて、選挙で問われることになった。

各種世論調査によると、大卒女性の間のトランプ氏の支持率は4年前の当選以来、ひたすら下がり続けている。そのためトランプ氏はこのところ、「バイデン政権になれば治安が崩壊する」などと繰り返し、「郊外族の主婦層」と本人が呼ぶ有権者を囲い込もうとしてきた。

トランプ氏の人格や人間性を疑問視する保守派の女性、特にキリスト教保守福音派の女性たちにとっては、「生きる権利」保護(つまり人工中絶を禁止すること)の重要性は、誰に投票するかの大きな決め手になり得る。

トランプ氏が新しい最高裁判事に女性を指名すれば、これも女性票の獲得に有効かもしれない。

一方で2018年11月の中間選挙で、野党・民主党は激戦州の郊外選挙区で多くの下院議席を奪還した。その際の民主党候補たちは、女性は自分の体について自己決定権を持つべきだと主張していた。

イニシャル「RBG」で広く親しまれたギンズバーグ判事は、女性の様々な法的平等を成文法にして確保することに尽力した。その判事が大統領選を目前に死去したことを受けて民主党は、「RBG」が力を尽くして守った女性の権利が、危険にさらされていると警告し、闘いに挑むかもしれない。

今年のアメリカはすでに、新型コロナウイルスと人種問題で揺れに揺れてきた。そこへ来て今では、道徳や宗教観、死生観などを軸に国内で長年続いてきた人工中絶をめぐる争いが、舞台中央で再燃することになった。


(英語記事 Ruth Bader Ginsburg: Trump wants replacement 'without delay'