2020年09月21日 13:35 公開

世界の大手金融機関が、総額2兆ドルもの不正資金のマネーロンダリング(資金洗浄)を野放しにしていたことが、米当局から流出した「フィンセン(FinCEN)文書」で明らかになった。

フィンセン文書ではこのほか、ロシアの富豪が制裁を逃れて西側諸国と取引をするために金融機関を利用していた実態も分かっている。

過去5年間で流出したさまざまな文書が明かした秘密取引や資金洗浄、金融犯罪について解説する。

「フィンセン文書」とは

「フィンセン文書」は2500件以上のファイルから成る。大部分が2000~2017年に米金融当局に送られたもので、顧客の不審な動きなどを報告している。

こうした内容は、国際的な金融機関などが最も厳格に守り、秘密にしているものだ。

金融機関はこれらの文書で疑わしい取引を報告しているが、文書そのものが犯罪や過失を証明するものではない。

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フィンセン文書はまずバズフィード・ニュースが入手し、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に共有され、分析が始まった。この分析には世界88カ国108の報道機関が関わり、BBCの報道番組「パノラマ」も参加した。

何百人ものジャーナリストが難解で技術的な文書を読み解き、金融機関が世間に知られたくないだろう内容を明らかにした。

フィンセンとは? SARとは?

ここで、フィンセン文書にまつわる2つの略語を紹介する。

まず「フィンセン」とは、アメリカ財務省の金融犯罪取締ネットワークを意味する。米ドル建ての不審な取引については、アメリカ国外でのものであってもフィンセンへの報告が義務付けられている。

SAR(不審行為報告書)は、こうした不審な取引を記録した文書を指す。金融機関は顧客が不審な動きをしていた場合にSARを作成し、当局に報告する。

フィンセン文書に含まれる2657件の文書のうち、2121件がSARだった。



なぜ問題なのか

犯罪行為から利益を得ようとした場合、最も重要なのはどこで資金を洗浄するかという選択だ。

資金洗浄とは、薬物取引や汚職などの犯罪行為で得た金銭を、犯罪とのつながりのない銀行口座に入れることで出所を特定させなくする行為を指す。

同様の手口は、ロシアの富豪が制裁をくぐり抜けて資金を西洋諸国に移す際にも使われている。

金融機関は本来、顧客の資金洗浄や違法取引を阻止する立場にある。

法律上、金融機関は顧客の身元を知っていなくてはならない。SARを当局に提出し、捜査中に不正な資金を取り上げるだけでは不十分で、犯罪行為の証拠を見つけた場合は、現金のやり取りを止めなくてはならない。

ICIJのファーガス・シール氏は、今回流出した文書は「金融機関が世界中で起きている不正資金の流れを把握していたことを明らかにした」と説明する。

また、取引されている金額の大きさも、特筆に価する点だという。フィンセン文書には合わせて2兆ドルもの取引が記録されているが、これまでに提出されたSARのほんの一部に過ぎない。

フィンセン文書で明らかになったこと

  • イギリスの香港上海銀行(HSBCは、自分たちが詐欺に利用されているという指摘を米捜査当局から受けた後も、世界中で数百万ドルもの不正資金の取引を看過していた
  • JPモルガン は、オフショア企業の所有者を把握しないまま、ロンドンの口座への10億ドル以上の送金を認めていた。後にこの企業の所有者が、米連邦捜査局(FBI)の「10大重要指名手配犯」の1人だと判明した
  • ロシアのウラジミール・プーチン大統領の側近の1人は、制裁によって西洋諸国の金融サービスの利用を禁じられているが、英バークレイズ銀行のロンドンの口座を使ってこれを回避している証拠が出てきた。この口座の資金の一部は芸術作品の購買に使われていた
  • フィンセンの情報部は、イギリスをキプロスなどと同様の「高リスク区域」に指定している。これは、イギリスに登記のある多くの企業がSARで報告されているからだという。フィンセン文書に名前の出てくるイギリス企業は3000社以上と、どの国よりも多い
  • アラブ首長国連邦(UAE)中央銀行は、対イラン制裁を破った地元企業への警告を受け取ったにも関わらず、対策しなかった
  • ドイツ銀行は、組織犯罪やテロ組織、違法薬物の密売人などの資金洗浄の温床になっていた
  • 英スタンダード・チャータード銀行は、10年以上にわたってテロ組織の資金源となっていた、ヨルダンのアラブ銀行への資金移動を認めていた

フィンセン文書、何が特別なのか

ここ数年、金融情報の流出が相次いでいる。

これに対しフィンセン文書は、いくつかの企業ではなく、多数の金融機関についての情報が含まれている点が特徴だ。

フィンセン文書にはさまざまな企業や個人が関わった疑わしい取引が記されており、なぜ金融機関がこうした疑惑を知りながら対処しなかったのかという疑問が浮上する。

FinCENは、今回の情報流出はアメリカの国家安全保障に関わる問題で、捜査妨害に当たるほか、報告書を提出した機関や個人の安全を危険にさらすものだと指摘した。

一方で先週には、反資金洗浄プログラムを刷新すると発表している。

イギリス政府も、詐欺や資金洗浄の取り締まりのために、企業の登記方法を改革する計画を明らかにしている。

(英語記事 All you need to know about FinCEN documents leak