2020年09月21日 19:28 公開

フィンセン文書」調査報道チーム、BBCパノラマ

英与党・保守党に170万ポンド(約2億3000万円)の巨額献金をしたロシア人女性が、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に近いロシア財閥からひそかに資金提供を受けていたことが、リークされた米財務省金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)の資料から明らかになった。

イギリス市民権を得てロンドンに住むロシア出身のリュボフ・チェルニューキン氏(47)は、2012年から英保守党に巨額献金を続けてきたほか、歴代3人の首相と会食したりテニスをするために、大金を払っている。

夫のウラジーミル・チェルニューキン氏(52)は、プーチン政権の財務副首相。プーチン氏に解任された後、2004年に妻とロンドンに移住し、市民権を得た。

リークされた米財務省の資料によると、夫のチェルニューキン氏は2016年に、ロシア財閥スレイマン・ケリモフ氏と関係するとされる英領ヴァージン諸島登記の企業から800万ドル(約8億3000万円)を受け取っている。米政府は2018年、ケリモフ氏がロシア政府の「悪意ある対外活動」に関わっているとして、経済制裁の対象にしている。

ドイツ銀行ニューヨーク支店の関係者は、ケリモフ氏の子供たちが取り仕切る「デフィニション・サービセス」というこのオフショア会社が移動した資金2億7850万ドル(約290億円)について当局に報告しており、チェルニューキン夫妻に払われた800万ドルもその一部だと説明しているという。

ケリモフ氏は、ロシア最大の金鉱を所有し、ロシア連邦院(上院)の議員でもある。フランスでは2016年から、脱税容疑で捜査を受けている。

リュボフ・チェルニューキン氏は2012年に保守党への献金を開始。総額150万ポンドの献金のほとんどは、ケリモフ氏が2016年4月29日に彼女の夫ウラジーミル氏へ800万ドルを送金した後のもの。ただし、ケリモフ氏からの資金が保守党への献金に使われたかどうかは、はっきりしない。

リュボフ・チェルニューキン氏の弁護士はBBCに対して、保守党への献金はロシア政府とは無関係だと話している。

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「フィンセン文書」と呼ばれる2657件の文書は、米バズフィードが入手し、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に提供したもの。BBCの調査報道番組「パノラマ」が、各国の報道機関と提携して、漏洩(ろうえい)文書について調査を進めている。

漏洩文書のうち約2100件が、「不審行動報告書(SAR)」と呼ばれるものだった。SARは違法行為の証拠ではなく、金融機関が不審と思う顧客の行動を金融当局に知らせるためのもの。

「不適切な献金の出資者」

イギリスでは近年、国内在住の裕福なロシア人による政治献金が注目されている。今年7月には英下院の情報安全保障委員会(ISC)が、イギリス国内でのロシアの活動に関する調査報告書を公表し、「政府はロシアの脅威に必要な対応を甚だしく軽視した」と指摘。ロシアが影響力を拡大しようとする活動を、英政界の関係者が支援してしまう可能性もあると述べた。

ロシアに詳しいジャーナリストのエドワード・ルーカス氏は、ロシアの影響についての下院調査で証言した1人だ。そのルーカス氏はBBCパノラマに取材に対して、「チェルニューキン夫妻は、素敵な人たちかもしれないが(中略)イギリスの政党に献金をする人物としてはふさわしくない」と述べた。

ルーカス氏はさらに、「リュボフ・チェルニューキンだけでなく、ほかにも複数の金持ちロシア人が保守党と政府に深く入り込んでいるのは、とても心配だ」と話した。

大金を払って会食やテニス

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リュボフ氏は保守党に高額献金を重ねることで、英政府幹部に接触する機会を獲得してきた。

13万5000ポンド(約1800万円)を払うことで、2019年4月にはロンドン市内の高級ホテルでテリーザ・メイ首相(当時)の閣僚たちと女性だけで会食する機会を得た。上の写真の右から4人目がリュボフ氏。

リュボフ氏はさらに、ボリス・ジョンソン首相とテニスをする権利を2度にわたりオークションで落札している。2度目の今年2月のテニスには、4万5000ポンド(約602万円)を払った。

2014年には、デイヴィッド・キャメロン首相(当時)や当時ロンドン市長だったジョンソン氏とテニスをする権利のため、16万ポンド(約2140万円)を払っている。

現時点でリュボフ氏は、史上最多の献金を保守党にした女性だ。選管記録によると、過去8年間の献金総額は170万ポンド(約2億2800万円)に上る。今年1月から7月までの間だけでも、33万5000ポンド(約4490万円)を寄付している。

2018年に当時外相だったジョンソン氏は、BBC番組「アンドリュー・マー・ショー」でチェルニューキン夫妻や、テニス献金16万ポンドについて質問され、「あの男性が資産を築いた方法について何かひどい汚職の証拠があるのなら、この国の法執行機関がその資産を没収することはできる」と答えていた。

さらに、政治献金の出所については「可能な限りありとあらゆる調査をしているし(中略)今後も調査を続ける」と話していた。

「不動産開発のためのローン」

フィンセン文書によると、ウラジーミル・チェルニューキン氏への800万ドルは、ロシア財閥ケリモフ氏の子供たちが取り仕切る、オフショア会社「デフィニション・サーヴィセス」からのものだった。ケリモフ氏とチェルニューキン氏は知り合いだという。

送金を請け負ったドイツ銀行が、送金に関わる別の銀行に資金の内容を照会すると、「借り入れ側の不動産開発を支援するためのローン」で、デフィニション社は不動産投資に関わっているのだという回答があった。

それでもドイツ銀行は、不審行動報告書(SAR)を提出し、ケリモフ氏の関与とチェルニューキン氏への資金提供について特筆している。

SARの中でドイツ銀行はデイフィニション社について、「高リスク地域で登記され、金融機関を利用している」と指摘。「この取引の目的や、当事者間の関係が確認できなかった」と報告している。


チェルニューキン氏の資産状況は

ウラジーミル・チェルニューキン氏は、モスクワの工場跡地の所有権をロシア人財閥オレグ・デリパスカ氏と長年にわたり争っている。そのため、ロンドン高等法院で進む審理の中で、夫妻の資産内容は公表されてきた。

夫ウラジーミル氏が妻リュボフ氏や夫妻のために信託基金を設立していることも明らかになっている。

妻リュボフ氏は元銀行員と呼ばれてきた。

イギリスの企業4社の取締役として登記されている。そのひとつの会社は、デフィニション・サーヴィセスが夫へ800万ドルを送金した際の銀行書類に連絡先として記載されているロンドンの住所と同じ場所が、所在地として登録されている。

夫妻の弁護士たちは、夫ウラジーミル氏がこの800万ドルを受け取ったか質問の回答を避けた。

その一方で、「チェルニューキン夫人は、ケリモフ氏やケリモフ氏と関係する会社から金銭を受け取ったことは一度もない」としている。さらに、「保守党への献金が、ロシア政府やその他の勢力の影響を受けたことは一度もない」として、リュボフ氏の献金はすべてイギリス選挙管理委員会の規則にのっとっていると説明した。

保守党の広報担当は、「この国にはロシア出身でイギリス市民の人が大勢おり、この人たちは政党に献金する民主的な権利がある。その多くはプーチンを声高に批判してきた人たちで、全員を十把一絡げに扱うのは、まったく間違っているし差別的だ」とコメントした。

フィンセン文書は、犯罪者が汚れた資金をどのように世界中で動かし、それを大銀行がどのように容認してきたか明らかにする、秘密文書。世界の金融システムでイギリスが弱点になりがちな様子や、ロシア資金がロンドンにあふれている様子も、流出した文書からうかがえる。

最初に同文書を入手した米バズフィード・ニュースが、ICIJに提供した後、世界中の記者400人が内容を精査してきた。BBCでは調査報道番組「パノラマ」の取材チームが、調査に参加してきた。


(英語記事 FinCEN Files: Tory donor Lubov Chernukhin linked to $8m Putin ally funding