武藤賀洋(舞台演出家)

 「演劇界、世間に知られたけど嫌われちゃったね…」。会員制交流サイト(SNS)を通じて私のもとに送られてきた一文だ。

 そうなのだ。演劇界、世間に知られたけど、嫌われちゃったのである。

 確かに、賛否両論あるだろうし、私のような無名の舞台演出家が何を言っても、世の中にはさざ波も立たないだろう。それでも、自分の考えを書き、少しでも演劇界がよい方向に変わっていくことができればと思っている。舞台演出家のはしくれとして、現状とこれから、何をすべきか考えてみたい。

 冒頭の一文が送られてきたのは、日本がコロナ禍にあえいでいた5月のはじめ。劇作家の平田オリザ氏が、他業種への配慮を欠いた発言をして物議を醸していた。しかし、コロナ禍の以前から、演劇界は嫌われていたし、特に小劇場と呼ばれる種類の演劇は仕事として認めてもらえていなかった、と私は考えている。

 お芝居で食べていけない人は、全くと言っていいほど相手にされない。部屋やお金を借りるとき「俳優です」「舞台演出家です」と言っても、無名であれば借りられない。世間的に、信用がないのだ。部屋を借りるにしてもお金を借りるにしても、別の仕事(副業)やアルバイトが、貸主の方では本業だと認識されるわけである。演劇だけで食べられない人間が何を言うかとお叱りを受けるかもしれないが、世間から見ればまだまだ信用のないのが演劇界なのだと思っている。

 演奏家のように楽器を弾けるわけでもなく、噺家(はなしか)のように一人何役も演じられるわけでもない。しゃべって動いているだけで、お金を得ている。演劇に興味のない人から見たら違和感の塊のような職業なのだろう。上手な俳優に対してはこの限りではないが、特に小劇場を中心に活動している私のような人間は「趣味でしょ」と言われるのが関の山だ。

 これは大きな劇場で公演を行っている人も同じだ。一部を除けば「食えていないでしょ」「趣味の延長上でしょ」と言われたり、感じたりした人ばかりではないだろうか。演劇界というのは、それほど世間に認めてもらえていない世界なのだ。
 ※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
 コロナ禍によって演劇界は壊滅的な打撃を受けた。私の周りでも、活動をやめてしまった団体や人が複数見られた。劇団やカンパニー(作品を制作する集団)、俳優・スタッフはもちろん、劇場、稽古場などの経営者とスタッフも苦しんでいる。