2020年09月27日 11:19 公開

ドナルド・トランプ米大統領は26日、人工妊娠中絶に反対するなど社会的保守派が歓迎する48歳女性判事を、がんで亡くなったリベラル派のルース・ベイダー・ギンズバーグ判事の後任として指名した。終身任期の最高裁判事人事を大統領選を目前に行うトランプ政権に、野党・民主党は強く反発している。

ホワイトハウスで指名を発表したトランプ氏は、バレット判事を「比類ない功績、とてつもない知性の女性」で、「卓越した学者、そして卓越した判事」だとたたえた。さらに、「決してひるむことない忠誠心を憲法に抱いている」と説明した。

バレット判事は、最高裁判事としての自分の判断はあくまでも法律に沿って行うと強調。「裁判官は政策決定者ではない。自分自身が特定の政策について抱いているかもしれない見解は、決然として横におかなくてはならい」と述べた。

バレット判事が上院に承認されれば、最高裁判事の構成(定数9人)は当面、6対3で圧倒的に保守に傾くことになる。1人の大統領が最高裁判事を3人も選ぶのは異例。

大統領選をトランプ氏と争う民主党のジョー・バイデン大統領候補は上院に対して、「アメリカ国民が次の大統領と次の連邦議会を選ぶまで、欠員人事を進めないよう」呼びかけた。

「最高裁に誰が座るべきか、合衆国憲法は有権者には一度だけ発言権を与えている。今こそその時で、有権者の声を聞くべきだ」と、バイデン氏は上院に承認手続きを大統領選以降まで待つよう求めた。バイデン氏は、大統領選目前に最高裁人事を強行するのは「権力の乱用」だと非難を繰り返している。

最高裁判事は終身制で、自分を指名した大統領がホワイトハウスを去った後も、最高裁に留まり、重要判決を下し続ける。人工中絶や医療保険制度、銃規制や同性結婚など国民生活に大きく影響する判断をするほか、最近では、トランプ政権によるイスラム教徒の多い国からの入国制限を認めたり、気候変動対策の差し止め請求を認めたりしており、その判断は世界情勢にも影響を与える。

激しい接戦で結果がなかなか判明しなかった2000年大統領選の際には、最高裁がフロリダ州の再集計を差し止め、その結果、ジョージ・W・ブッシュ氏が当選した。

今年の大統領選の開票結果が紛糾(ふんきゅう)した場合も、最高裁がその決着に影響する判断を示す可能性もある。それだけに、11月3日の大統領選を目前にした後任人事に、民主党は猛反発している。2016年に当時野党だった共和党が大統領選の年に終身の最高裁判事を決めるべきではないとして、バラク・オバマ大統領(当時)が選挙の237日前に指名した候補について、審議を拒否した経緯もある。

オバマ大統領がこの時指名した穏健派判事の就任はそのまま立ち消えになり、代わりにトランプ大統領が就任直後に指名した保守派のニール・ゴーサッチ判事が就任した。

今回のバレット判事指名から11月3日の大統領選まで40日を切っているが、共和党幹部のミッチ・マコネル上院院内総務は、バレット判事の指名を「これ以上の素晴らしい決断はない」とトランプ氏を称賛。マコネル氏は大統領選より前に、上院本会議で承認決議を行うと強調している。

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バレット判事は承認されるのか

大統領が指名する判事候補は、上院の司法委員会(委員22人)の審議を経て、本会議が過半数で承認する必要がある。司法委員会は通常3~5日の公聴会で指名候補に質疑を重ねた後、本会議の採決にかけるか決議する。

上院(定数100)は現在、与党・共和党が53議席で多数を占める。数人の共和党議員が大統領選の前に最高裁判事を決めるべきでないと発言しているものの、共和党はすでに承認に必要な51人の票を確保しているとされる。

CBSは複数の消息筋の話として、ホワイトハウスが共和党の上院議員たちに連絡をとり、来週にもバレット判事と面談するよう調整を始めていると伝えた。上院議員たちとの顔合わせは30日から始まる見通し。

予想外の展開を除き、民主党にはバレット判事の承認を阻止する方策がないものとみられている。

ギンズバーグ判事の死後に実施されたロイター・イプソス世論調査によると、成人アメリカ人の62%が、後任判事は大統領選の勝者が決めるべきだと回答。23%はこれに反対し、その他は「分からない」と答えている。


エイミー・コーニー・バレット判事とは

ニューオーリンズ出身の敬けんなキリスト教カトリック信者で、2013年には雑誌記事で、「命は受胎の時に始まる」と発言。これは人工中絶に反対する立場の表明として受け止められる。アメリカでは1973年の「ロー対ウェード」判決で、全国的に人工中絶が女性の権利として認められた。しかし、近年では州法レベルで中絶を規制する動きが活発化し、これに最高裁が違憲判決を下すなど、法廷闘争は続いている。

こうした状況で、最高裁が「ロー対ウェイド」判例を覆すことを期待する中絶反対派は、バレット判事の就任に大きな期待を寄せている。

バレット判事はこのほか、トランプ大統領による強硬な移民規制策や、銃規制の緩和も支持してきた。

2017年5月にトランプ大統領によって第7巡回区控訴裁判所判事に指名された後、上院司法委員会の公聴会で野党・民主党から厳しい質問を受けたものの、同年10月に本会議で賛成55、反対43で承認された。

この時の公聴会でバレット判事は、自分の信仰心が自分の司法判断に影響するかどうか、民主党議員から質問された。

ダイアン・ファインスタイン上院議員(カリフォルニア州選出)に、「あなたの中にはドグマ(教義、偏見)が大きく響いている」と言われると、バレット判事は自分は司法判断と信仰心は切り分けていると強調していた。

性的少数者の権利を擁護する様々な団体は、バレット判事が所属する保守派カトリック信者団体「People of Praise(崇拝の人々)」が運営する複数の学校が、性的関係は異性の夫婦間にのみ限定されるべきだと指針を掲げていることを批判している。

保守派はバレット判事が最高裁に就任することで、バラク・オバマ前大統領による医療保険制度改革法(「患者保護及び医療費負担適正化法」、通称「オバマケア」)を最高裁が無効にすることを期待している。

最高裁がオバマケアを無効と判断した場合、アメリカでは約2000万人が医療保険を失うおそれがある。

オバマ政権の副大統領だったバイデン氏は、バレット判事がこれまでオバマケアに反対し続けてきたことを批判し、懸念を強調した。


(英語記事 Amy Coney Barrett: Trump nominates conservative favourite for Supreme Court