
2020年09月29日 13:39 公開
9月から新年度が始まったイギリスの大学のうち、約40校で新型コロナウイルスの感染が報告され、数千人の学生が自主隔離を行っていることが明らかになった。
新型ウイルスの感染者が出た大学では、対面での講義が中止となり、オンラインに移行している。
マンチェスター・メトロポリタン大学では、これまでに127人の感染が発覚し、学生1700人が2週間の自主隔離を行っている。スコットランドのグラスゴー大学では172人が感染、600人が自主隔離。北アイルランド・ベルファストのクイーンズ大学では30人が感染したとの報告があった後、100人が自主隔離を行っている。
また、エセックス大学では、スポーツチームでクラスター感染が発生した。
一部の学生は、学業のために家を出て寮費を払って生活しているにもかかわらず、ほとんどの講義がオンラインになっていることに疑問を呈している。
こうした中、講義がなくなったことによる学費の返還の是非や、学生寮などで生活している学生が年末のクリスマス休暇に家に帰れるかどうかも焦点となっている。
イギリスではここ数週間で新型ウイルスの感染者が急増。政府は飲食店の営業時間制限など、新たな政策で対応している。
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学費は返還されるのか
イングランドの大学の学生に学費が返還されるかどうかについてボリス・ジョンソン首相の報道官は、大学には自治があるため、各校が判断するだろうと述べた。
しかしイングランドの高等教育機関を監督する学生局は「返還は一切できないという一律の対応」はせず、一部返還などの要望についても真剣に考慮すべきだとしている。
マンチェスター・メトロポリタン大学は、自主隔離を行っている学生に対し、2週間分の寮費免除と、スーパーで使える50ポンド分の割引券配布を決定した。
寮に住む学生が、クリスマス休暇に家に帰れるかどうかも議論の的になっている。
最大野党・労働党は、新型ウイルスの感染拡大を抑え、学生を自主隔離させるために、休暇中の帰宅を制限することも視野に入れるべきだとしている。
学生局や大学連合といった公的機関から、大学での新型ウイルス感染の規模は報告されていない。しかし地元メディアなどの報道を追跡すると、全国130校のうち40校以上で感染者が報告されている可能性がある。
こうした情報は、大学講師と学生が自主的に運営している「Unicovid」などのウェブサイトが独自に集計している。
オンライン講義
ウェールズでは28日、アベリストウィス大学が対面での講義を中止し、オンラインに移行すると発表した。
イングランドのマンチェスター・メトロポリタン大学でも、1年と基礎コースの全ての講義を、向こう2週間はオンラインで行うとしている。
多くの大学では、対面とオンラインの講義を組み合わせてカリキュラムを構成すると学生に約束している。
しかしオンラインへの比重が高まることで、学費の返還はあるのか、学生寮の寮費を払い続けるべきかなど、さまざまな疑問が噴出している。
労働党のケイト・グリーン影の教育相は、学費返還の是非は常に「選択肢の一つとして残しておくべきだ」と発言している。
学生や親からは混乱と怒りの声が
BBCが取材する中で学生たちは、新型ウイルス流行をめぐって混乱や不透明なことが多いと話した。
マンチェスター・メトロポリタン大学1年生のイヴさんは、「周りの学生は寮にとどまりたくないからと、みんな出て行った」と語った。
「私は家では祖父と同居しているので、感染リスクを考えると家には帰れない」
「寮に来るように指示したのは大学側なのに、手のひらを返して私たちを責めて、私たちのせいだと言われた」
ジョー・ウォードさんは、「新年度がこういう状態になって、全てがオンラインになると分かっていたら、大学に来るかどうかを考え直したかもしれない」と話した。
「何らかの補償をしてほしいと思っている」
ウォードさんのフラットメイトのナターシャ・クツチェルクさんも、ロックダウンが発表された時は「大きな混乱があった」と振り返り、大学側は「学生にロックダウンすると電子メールを送る前にもっと準備をするべきだった」と指摘した。
子どもたちを大学へ送り出した親も懸念を表明している。リュイス・ボレルさんの双子の息子は今年、それぞれ大学へ行くために家を出た。しかし新型ウイルス感染のリスクに加え、子どもたちを少人数のグループにとどめておくことも悪影響があるのではと心配していると話す。
「ルールが必要なのは分かるが、人と交流するのがとても難しい状況だと思う」
「公正と言えるのか? そもそも今年度、大学に行かせるべきだったのか?」
政府の対応は?
イングランドの学生についてジョンソン首相の報道官は、検査結果が陽性であれば自主隔離を行い、各地の制限に従うなど、学生であっても一般的な新型ウイルス対策に従うべきだと説明。
一方で、クリスマス休暇には全ての学生が寮にとどまらず、自宅に帰れるようになるだろうと話した。
スコットランドでもニコラ・スタージョン自治政府首相が、学生らの帰宅を保障すると述べた。
スコットランドでは、学生寮に住む学生に向けた新型ウイルス対策として、家族の訃報などの「相当な理由」がある場合には、短期的に帰宅して良いとの方針を示している。
また、学生寮に住む学生は原則として寮にとどまるよう指示されているが、家に戻ってオンラインで授業を受けてもよいとされている。
<分析> ショーン・コクラン教育・家族担当編集委員
イギリスの大学の3分の1で新型ウイルスの感染者が報告された。新年度は始まったばかりで、多くの学生が大学に戻ろうとしている。
しかし大学での流行は今後も拡大することが予想される中、大学の経営陣、監督機関、そして政府が次にどのような対応を取るのかに、注目が集まっている。
これは、学生たちが望んでいた学生生活ではないだろう。
1年生はまず、親元を離れることを心配する。しかし今年に関しては、新型ウイルス流行による自主隔離で家に帰れないかもしれないという心配も出てきてしまった。
学生はすでに寮費を払っており、対面とオンラインの両方で講義を受けられるといわれている。しかし、その比率はどんどんオンラインの方へ傾いているようだ。
つまり、他の学生や大学職員と直接、接する機会が減り続け、寮の自室にこもって録画済みの講義を見たり、Zoom会議のような形式で学業を行う時間が増えるということだ。
大学側はこの「キャンパス内でオンライン」状態を続けるべきなのだろうか? 残りの学期もそうするのは現実的だろうか? それとも、流行とロックダウンの繰り返しになるのだろうか?
あるいは、政府や保健当局が介入し、自宅で講義を受けられるよう方針を変えさせるのだろうか?
大学には自治がある。しかし現状を見ると、大学側は誰かが判断を下すのを待っているようにも見える。