国民によって選出された自民党所属の国会議員らから出馬要請を受けたという「絵」を描き、票をまとめた上で候補者の中で最後に出馬表明の意思を示す。これこそが昔ながらの、勝利を収める選挙戦略である。ただし、現代の議員で実現できる者は極めて少ない。

 届け出に必要な20人の推薦人を獲得するために、石破氏が悪戦苦闘していたのを見れば分かるだろう。野田聖子幹事長代行や小泉進次郎環境相のように知名度が高く、アンケートなどで国民から「総理になってほしい」と期待される議員であっても総裁選立候補というスタート地点に立てない者がほとんどなのだから、菅氏は大変な策士と言えよう。

 だからこそ私は、現時点では安倍前総理の政策を踏襲する方向性を打ち出し、「菅カラー」をはっきり見せない菅内閣に不気味さを覚えながらも、不気味だからこそ期待できるのではないかと考えている。

 今後、これまでのように安倍前総理が国会で答弁することはありえず、モリカケ問題や安倍前総理主催の「桜を見る会」の問題が菅政権下で再調査されるとは考えにくい。これだけの年数をかけたにもかかわらず追及しきれなかった以上、野党・マスコミの惨敗ということだ。タイムオーバーである。野党には気持ちを切り替えて、国民の大多数を占める無党派層、無関心層の心に響く戦略を打ち出してほしいものだ。

 他方面では、戦略家で話上手な菅氏が党内でバランスを取りながら、国政にあたることも期待できるのではないだろうか。そもそも、菅氏がどこまで本気で「安倍前総理の政策を踏襲する」と思っているのかは定かでない。むしろ表向きはそう言ってはいるが、裏では自身の政策を黙々と進めているように感じてしまうのだ。

 新政権誕生後、よく耳にするようになった携帯電話料金引き下げ、デジタル庁創設、不妊治療の保険適用の検討などについて安倍前総理はさほど言及してこなかった。少なくとも、菅内閣が安倍内閣のカーボンコピーというわけではないだろう。
衆院本会議で首相に指名され、拍手を受ける菅義偉氏(中央)=2020年9月16日午後、国会・衆院本会議場(三尾郁恵撮影)
衆院本会議で首班指名され、拍手を受ける菅義偉氏(中央)=2020年9月16日午後、国会・衆院本会議場(三尾郁恵撮影)
 また、菅氏が総理に任命される前から、会員制交流サイト(SNS)で「#スガヤメロ」「庶民出身なんてうそだ」などの書き込みが相次いだ。まだ始まったばかりのうちに批判ばかりは悲しすぎるし、これでは政治にチャレンジしてみたいという有能な若者はますます現れなくなる。文句ばかり言われるのならば、民間で能力を発揮して稼いだ方がいいではないか、という話になってしまう。

 私も議員に初当選した直後、「維新議員なんて死ね」「若い女に何ができるんだ。税金泥棒」などとファクスや郵便物による嫌がらせを受けた。その数は夥(おびただ)しく、議員になった途端にこれでは前途多難だな、と思った。

 加えて、近親者に政界関係者がおらず、地元の名士でもない者が総理になれるわけがないとの考えも根強いが、そもそも庶民出身だから仕事ができるというロジックも一切ないのだから出自は関係ない。菅氏の出自に関する批判や追及を行うのは愚かな行為だ。