なぜ、難しいかと言えば、大規模な第3相臨床試験を実施しなければならないからだ。数千~数万人を対象として、ワクチンを投与する群とプラセボ(偽薬)を投与する群に無作為に割り付け、感染者を減らすことを証明しなければならない。

 第3相試験で抗体ができることを確認したからといって、感染症を減らすとは限らない。ワクチン開発は第3相試験で失敗し続けている。今年2月には米ノババックスが、発熱やせきなどの症状を引き起こすRSウイルスのワクチン開発で、高齢者と妊婦を対象とした第3相試験において相次いで失敗したことが報告された。

 新型コロナのワクチン開発については楽観視できない。そうはいっても、ワクチン確保は多くの国民の願いだ。日本政府は外資系企業と交渉し、確保に努めている。7月31日にファイザーから6千万人分、8月7日にはアストラゼネカと1億2千万回分のワクチンの優先購入権を得ることで合意した。

 ただ、前途は多難である。9月初旬、アストラゼネカの治験中に、免疫付与以外の反応が起きる副反応が発生したと報じられた。詳細な情報は公開されていないが、横断性脊髄炎といわれている。この病気は、脊髄に炎症を生じ、進行すれば感覚消失、麻痺、尿閉や便失禁を生じる。原因はウイルス感染、自己免疫疾患などさまざまで、ワクチン接種後に起こることも報告されている。

 実は、アストラゼネカのワクチンは、以前から副反応について危惧されていた。それはワクチン接種に伴い強い炎症反応を生じるからだ。

 同社のワクチンはチンパンジーの風邪ウイルス、アデノウイルスに新型コロナのスパイクタンパク質の遺伝子を導入したものだが、治験では6時間おきに解熱剤であるアセトアミノフェンを1グラム内服することになっており、1日の総投与量は4グラムになる。しかし、日本でのアセトアミノフェン常用量は1回0・5グラム程度で、1日4グラムは最大許容量だ。この量を高齢者に投与することはない。

 この副反応の報告を受け、アストラゼネカは治験を一時的に中断した。日本では10月2日に治験の再開が公表されたが、米国では安全性についての懸念が払拭できず、9月6日から治験は止まったままだ。米国の食品医薬品局(FDA)は、今回の治験だけでなく、アデノウイルスベクターが用いられた中東呼吸器症候群(MERS)などの、他のワクチンの臨床試験のデータも含めて調査をすると発表している。

 米国はアストラゼネカに12億ドル(約1270億円)を支払い、3億回分のワクチンを確保したが、道のりは険しい。米国で治験が再開され、承認されたとしても、多くの医師は安全性について疑念を抱き続ける。通常、治験には臓器障害などの合併症がある人は登録されないからだ。市販後、このような人への接種が増えると副反応が急増する恐れがある。
米メリーランド州にあるFDA本部
米メリーランド州にあるFDA本部
 では、日本政府が契約しているもう一つの会社、ファイザーのワクチンはどうだろう。これは同社とドイツのバイオベンチャーであるビオンテックが共同開発したメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンだ。