7月27日、ファイザー・ビオンテックは、国際共同第2、3相臨床試験を開始した。これには米国、ブラジル、南アフリカ、アルゼンチンなどが参加している。臨床試験の進行は順調で、10月に入り、ファイザー・ビオンテックは欧州医薬品庁(EMA)への承認申請を開始し、EMAの諮問委員会は前臨床試験データの検討を開始した。

 このワクチンは、新型コロナのmRNAを脂質ナノ粒子に包み込んだもので、人に注射されると、体内で新型コロナ由来のタンパク質を発現する。そして、このタンパク質に対して免疫が誘導される。

 ワクチン開発の先頭を走る米モデルナと同じやり方だが、問題は効果だ。mRNAを用いたワクチンは、これまで臨床応用されていない。果たして、実際に感染者を減少させるかは、現在、進行中の臨床試験の結果が出るまで分からない。

 当初、ファイザー・ビオンテックは10月までに臨床試験の暫定結果が得られるとしていたが、9月末になって、60人以上の研究者が安全性を評価するには、接種後最低2カ月の経過観察が必要との声明を発表した。アストラゼネカのワクチンの副反応を受けての動きだ。

 10月6日、FDAは、この方針を受け入れると発表した。この結果、ファイザー・ビオンテックの正式な申請は早くても11月下旬以降となった。米大統領選には間に合わない。

 ファイザー・ビオンテックのワクチンには他にも問題がある。mRNAはゲノム配列さえ突き止められれば、ワクチンの設計は容易だ。製造についても、手間のかかるウイルス培養を必要とせず、安価に大量生産できる。ファイザー・ビオンテックは2020年末までに最大1億回分、21年末までに13億回分を用意するという。ウイルス培養を用いた通常のワクチン製造法の10倍以上を生産できることになる。

 問題は保管と搬送にある。mRNAは常温では不安定なため、凍結状態で保存しなければならない。知人の製薬企業関係者によると「マイナス60度以下が必要」だという。

 アストラゼネカのアデノウイルスベクターワクチンは、季節性インフルエンザワクチンなどと同様に冷蔵保存できる。だが、一般的なクリニックにマイナス60度の冷蔵庫があるとは限らない。ファイザー・ビオンテックのワクチンが日本で承認された場合、多くの国民に接種するためには、従来と異なる接種体制を整備する必要が出てくる。

 現在、メディア報道を見ていると、ワクチンさえ開発されれば新型コロナは克服できるかのような論調が強い。ところが、安全性、有効性の両方で困難が予想される。
英製薬大手アストラゼネカのロゴ(ロイター=共同)
英製薬大手アストラゼネカのロゴ(ロイター=共同)
 このことは専門家の間では常識だ。FDAは、今年6月に製薬企業向けに発表したガイドラインの中で、新型コロナワクチンの承認条件として、少なくとも50%の予防効果が必要と明記している。