2020年10月12日 14:08 公開

アンソニー・ザーカー北米担当記者

ドナルド・トランプ米大統領が連邦最高裁判所の判事に指名した、エイミー・コーニー・バレット氏の承認に関する公聴会が12日、連邦議会上院の司法委員会で始まる。最高裁のイデオロギーの面でのバランスの変化は、全米で国民の生活に影響を及ぼす。それが最も大きいのがテキサスだろう。

テキサス州オースティンの民主党活動家スーザン・リップマン氏は、ルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事の訃報を車の中で聞いた。

「私はすごく感情的なタイプではない」と彼女は言う。「でも爆発した。激怒して大声を張り上げ、ハンドルをたたいた」。

リップマン氏は、リベラル派重鎮のギンズバーグ氏がいなくなることが、最高裁の思想的構成に及ぼす影響をすぐに悟った。トランプ氏が選ぶ判事が欠員を埋めることになれば、数十年は保守派寄りの構成が続くことになる。

そこでリップマン氏と友人のデビー・ホワイト氏は、テキサス州選出のジョン・コーニン上院議員(共和党)の事務所前で、抗議に加わることにした。コーニン氏は、コーニー・バレット氏を支持すると公言している。

ホワイト氏は、最高裁が6対3で保守派優勢になれば、公的健康保険や人工妊娠中絶など、民主党にとっての重要項目が直接攻撃される恐れがあると述べる。

「医療保険制度改革法などの非常に大事なことが消滅するのではないか心配だ。もしそうなれば、多くの人の命に関わるので恐ろしいことになる」

「女性の権利、女性の健康問題は、保守的な最高裁ではすべて絶望的だ」

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トランプ氏によるバレット氏指名をめぐる政治闘争の中心は、ホワイトハウスと連邦議会の民主党上院議員らの間で展開する。ただ、最高裁で近年争われた大規模な法廷闘争の数々が、テキサス州で始まったものだ。

例えば、医療保険制度改革法(バラク・オバマ前政権が成立させた主要法律の1つで、健康保険の対象者の拡大を目指す内容)に対する法廷闘争は、テキサス州で始まった。この裁判は大統領選挙の直後、バレット氏が判事に加わっているかもしれない最高裁で審議が始まる。

妊娠中絶を実施するクリニックを規制した2016年の重大な判決も、テキサス州での提訴が元となった。連邦投票権法、大学入学選考における人種の考慮、オバマ政権下での移民制度改革の合憲性などをめぐる最近の論争も、同州から沸き起こった。

死刑、特定の性行為を禁じる法律、全国で中絶を合法とした画期的なロー対ウェイド判決(1973年)などに関する数件の訴訟も、テキサス州が重要な舞台となっている。

テキサス大学で法律を教えるHW・ペリー教授は、テキサス州は面積が広く人口も多く、国民生活のほとんどの側面に影響する諸問題が州内で重視されているからだと説明する。しかし、テキサス州が最近になって重要裁判で目立つようになったのは、同州の共和党幹部たちが意識して、保守派法曹界での存在感を拡大しようとしてきたからだ。

「テキサスは、訴訟を最高裁まで持ち込むための、リーダー的な役を担うようになった。しかも、実際に最高裁の審理でテキサス州が当事者として陳述することも多い」とペリー教授は言う。「そのために高度に専門化された事務所ができており、他の保守的な州の多くでも訴訟を最高裁に届かせる役割を果たしている」。

2013~2020年にテキサス州訴訟長官を務めたスコット・ケラー氏は、最高裁における11件の裁判で州側の陳述をした。ケラー氏の次に多い州の検事は4件だ。同州のグレッグ・アボット知事は州司法長官だった当時、自らの仕事について、「出勤し、連邦政府を訴え、それから帰宅する」とよく語っていた。

保守派の法的立場を拡大しようとするテキサス州政府は、注目の訴訟でいつも勝利しているわけではない。ソドミー禁止法、投票権法、死刑、直近では中絶をめぐる裁判などで敗訴している。5対4の僅差で敗れることも多い。

ギンズバーグ氏がいなくなり、バレット氏が後任になる見通しの今、テキサス州の保守派は法律をめぐる潮目が変わると楽観している。

「歴史的なチャンスだ」と、オースティンの政治コンサルタントでトラヴィス郡共和党の代表を務めるマット・マコヴィアク氏は言う。「テキサスと全国の保守派は、大統領による直近の2人の最高裁判事指名に大変満足し、勇気づけられている。今度の指名についても本当に期待している」。

中絶に反対する団体は、中絶の権利を支持してきたギンズバーグ氏にバレット氏が取って代わるとして、バレット氏の指名を歓迎している。判事の変更により、「誕生前の子どもの保護について、新たな希望が生まれるかもしれない」としている。

中絶に関しては、テキサス州法をめぐる別の裁判も現在、連邦控訴裁で審議が進められている。この州法は、妊娠中期の中絶手術で一般的な「子宮頸管拡張と吸引」を禁止し、胎児組織の埋葬や火葬を義務付けている。

中絶反対団体は、トランプ氏がこれまで最高裁に指名したブレット・キャヴァノー判事とニール・ゴーサッチ判事と同様に、バレット判事もテキサス州法を支持するはずと楽観視している。さらに、他州の中絶規制の厳格化にもつながるよう、法的環境を整えてくれるはずだと期待している。

「テキサスは生命尊重(人工中絶反対)の州で、我々保守派はもちろんロー対ウェイド判決の覆されることを期待している」とマコヴィアク氏は言う。「もちろん、それは直ちに中絶を違法とするものではない。州レベルで判断すべき問題に戻るということだ」。

テキサス州の保守派が活気づいているのに対し、左派は今後の長い闘いに備えている。テキサスでリベラルの権利を守るための法廷闘争は、時間がかかり思い通りにならないだけでなく、不毛なことも多い。

「恐ろしく憂鬱(ゆううつ)だ」と、オースティンの弁護士で、中絶の権利のために長年闘ってきたスーザン・ヘイズ氏は話す。「生殖権をめぐる訴訟や投票権をめぐる訴訟、他の公民権をめぐるテキサス発の訴訟が不均衡に多い。テキサス州内の基本的人権を守るために、最高裁に判断を仰がなくてはならないことが、過剰に多い」。

リベラルのこうした不満に対して保守派はこう繰り返す。選挙結果がもの言うのだと。トランプ氏は2016年大統領選で勝ち、共和党は2015年、判事を承認する連邦上院を掌握した。テキサス州は1994年以降、州を代表する政治家に民主党員を選出していない。

だが、テキサス州のリベラルにも希望の兆しはある。民主党大統領候補のジョー・バイデン氏が、トランプ大統領と同州で接戦状態にあるのだ。コーニン上院議員の再選がかかる選挙も、予想以上の接戦となっている。2002年から共和党が支配している州議会を、民主党が再び掌握する可能性も高まっている。

ペリー教授は、テキサス州で民主党が優勢になれば、これまで保守派を支えていた同州の司法機関をリベラルが受け継ぐことになると話す。

「人口動態などの変化によって、テキサスでは民主党と共和党が拮抗しつつある。それだけにいずれは、保守派のために作られたこの州の司法の仕組みが、リベラルにとって強力なよりどころになると、期待するだけはいつまでも期待している。まだ事態はそこまで至っていないと思うが」

な変化を生み出す力になり得ると主張する。

しかし弁護士のヘイズ氏は、目下のところ同州のリベラル勢力は、保守派に有利になっている法律闘争の流れを抑える必要があると話す。

「個人的なことを言えば、私たちはゆっくり寝られていない」、「でもテキサス州民は闘うことに慣れている」。

ヘイズ弁護士が最初に、ギンズバーグ判事の死去を知った時には、罵倒語を口にしてから外に出て、雲のない夜空に光る星を見上げた。そして、憧れていた法律家は2010年に死去した夫とついに再会できたのだと、思いにふけったのだという。

「マーティー・ギンズバーグのことを思って、彼がどれだけ妻を愛して支えていたかを思った」とヘイズ弁護士は言う。

「そして、悲しむよりも、お2人がまた一緒になれたことが嬉しいと思った。そして悲しいと思うより、自分の中に力と決意が生まれるのを感じた」

(英語記事 What's at stake in US Supreme Court fight