本城雅人(作家)

 シーズン中のトレードで巨人からロッテに移籍した沢村拓一投手が入団会見当日の9月8日、日本ハム戦の六回に登板し、3者三振に打ち取ったシーンは、今季これまでのプロ野球で最も鳥肌が立った。この試合の後、沢村はリードした展開の八回を投げるセットアッパーを任され、首位争いをするロッテで、かつての輝きを取り戻した。

 沢村といえば巨人のドラフト1位指名選手であり、抑えもやったスターだ。近年、トレードが増えてきたが、それは日本ハム、楽天、ロッテなどのパ・リーグ球団が積極的に仕掛け、ひと昔前ならあまり選手を出そうとしなかった巨人が応じるようになったからだろう。

 巨人の場合は原辰徳監督の「他のチームで活躍したなら、それはそれでいいじゃないか」という鷹揚(おうよう)さが出ていると私は思っているが、日本球界に古くから残る「生え抜き至上主義」が変わってきているのは確かだ。

 沢村のように、所属していたチームで活躍の場を失っていた選手が新天地で成果を出すと、日本野球機構(NPB)が議論している「現役ドラフト」(仮称ブレークスルードラフト)を実施すべきだという声も多く聞こえてくる。

 現役ドラフトとは、米大リーグ(MLB)の「ルール5ドラフト」をもとに日本プロ野球選手会(炭谷銀仁朗会長)が提唱したもので、出場機会の少ない選手を再度ドラフトにかけ「飼い殺し」を防ぐ狙いがある。新型コロナウイルスが起きていなければ、今シーズン中にも始まっていた可能性が高かった。

 それでは日本版はどんなものかというと、漏れ伝わっている限りでは以下のようなものになる。

・各球団が指名対象となる8人の選手リストを提出する

・その中から各球団が最低1人は指名する

・シーズン中に実施する(MLBではシーズンオフ)

六回に登板し、日本ハムのビヤヌエバ選手を空振り三振に仕留め、雄たけびを上げるロッテ・沢村拓一投手=2020月9月8日、ZOZOマリン
六回に登板し、日本ハムのビヤヌエバ選手を空振り三振に仕留め、雄たけびを上げるロッテ・沢村拓一投手=2020月9月8日、ZOZOマリン
 一流選手だけでなく、控え選手の移籍も目指して1993年に導入されたフリーエージェント(FA)制度が、一部のトップ選手しか行使できないような権利になっているのが実情だ。それだけに、出場機会に恵まれない選手を救うための措置を求める声、私が新聞記者をしていた10年以上前から選手会を中心に出ていた。そういう意味では、現役ドラフトがスタートすれば改革の一歩にはなるが、正直、私は今回の内容では、移籍の活性化につながらないだろうと考えてしまう。

 その理由は、①シーズン中の8人の提出リストなら、各球団ともその年のオフに戦力外通告をする選手を名簿に載せるにすぎない、②ソフトバンクや巨人といった戦力が充実したチームも補強でき、そこでまた余剰戦力が発生する、③相手先が分かるトレードとは異なり、どこのチームに指名されるか分からない現役ドラフトに、即戦力の可能性がある選手は出せない――からである。

 沢村にしても、交流戦のない今季のロッテだから、巨人は放出できた。これが、絶対的守護神の山崎康晃投手が大不振で2軍に降格していたDeNAや、今季限りで藤川球児投手が現役引退する阪神などの、セ・リーグのライバルに指名されると懸念したら、出せなかったのではないか。