この報道に関してアリエフ大統領は米CNNのインタビューでトルコ空軍のF16が国内にいることを認めたものの、戦闘には参加していないと否定しているが、結果として疑念を再燃させてしまった。

 しかし、現在軍用機であっても、レーダー画像から撃墜が容易に解析できるにもかかわらず検証報道が出ないことからみて、筆者の見解としては、撃墜報道はアルメニア政府による意図的なフェイクニュースであるとみている。

 さらに言えば、トルコがアゼルバイジャンに対するモラルサポートを強調したとしても、軍事支援を行ってアルメニアとの戦闘に出るのは、あまりにリスクが高いのである。それはトルコとアルメニアの間の歴史にある遺恨によるものだ。

 第一世界大戦当時、アルメニア人が大量にアナトリア半島からシリア側に追放され、多くの犠牲者が出た。いわゆる「アルメニア人虐殺」である。この問題について、アルメニアとトルコ両国の立場は全く一致していない。この問題が発生したのは、現在のトルコ共和国が成立する以前のオスマン帝国時代のことであり、しかも帝国自体が欧州列強に侵略される中で、ドイツ側について第一次世界大戦に参戦し敗れ、国土もズタズタにされる寸前の時代であった。

 当時欧米が持ち込んだ民族主義は、帝国時代には共存が成り立っていた諸民族、諸宗教の間に要らざる敵意を増幅させ、幾多の悲劇が起きた。そして多くのアルメニア人がその後、米国やフランスなど西欧諸国に移住したため、現在もなお、この問題は欧米からトルコに対するネガティブ・キャンペーンの主要な材料にされている。そのことを十分にわきまえているトルコが、アゼルバイジャンへの軍事支援のために、突然アルメニアとの戦闘を開始することなど、あり得ないのである。

 昨年秋、トルコはクルド人のテロ組織、人民防衛隊(YPG)とクルド労働者党(PKK)を掃討するためにシリア内戦に介入したが、そのときもクルド人が虐殺されるという起こり得ないフェイクニュースが世界を駆け巡った。なぜならトルコ国内にも多数のクルド人がおり、近年はシリア北部での内戦を逃れてトルコに逃れたクルド難民も数十万人におよぶ。
シリア北部アレッポで、アサド政権の部隊と銃撃戦を展開する反体制派武装組織「自由シリア軍」の兵士ら-=2013年10月(ロイター=共同)
シリア北部アレッポで、アサド政権の部隊と銃撃戦を展開する反体制派武装組織「自由シリア軍」の兵士ら-=2013年10月(ロイター=共同)
 もしトルコが北シリアに介入する理由がクルド人の抹殺にあるのなら、先に国内のクルド人を弾圧するなり殺害するなりしないと話のつじつまが合わない。しかし、そのようなことは全く起きていなかった。このときは、米国が国際テロ組織「イスラム国」を掃討するためにシリアに介入して、同じく国際テロ組織であるクルド人武装組織のYPGと、米国でもテロ組織認定しているPKKを支援するという矛盾した行動をとった。

 そこでトルコがついに「テロとの戦い」のダブルスタンダードだとして介入に踏み切り、あわや米軍と衝突する寸前までいった。「クルド人虐殺」のフェイクニュースは米国がさかんに流したが、このうわさはクルド人の多いヨーロッパでも増幅された。このあたりから、トルコはロシアとの協力体制を強化したのである。

 トルコはさらにリビア内戦で国連承認の政権側を支援すると、フランス、エジプト、UAEなどから非難され、東地中海のガス田開発ではギリシャやフランスから激しい非難を浴びている。そうした国々の中でも、とりわけ合理性がないのがフランスのマクロン政権によるトルコ非難である。