2020年10月16日 13:28 公開

ドナルド・トランプ米大統領の新型コロナウイルス感染がきっかけで中止になった2回目の大統領候補討論会に代わり、トランプ氏と野党・民主党のジョー・バイデン大統領候補は15日夜、それぞれ個別のタウンホール形式の対話集会に出席した。トランプ氏は「Qアノン」と呼ばれる陰謀論を否定せず、バイデン氏は連邦最高裁の定数を増やすかどうか言明しなかった。

トランプ氏のイベントはフロリダ州マイアミの屋外で開かれ、米NBCニュースが中継。バイデン氏は同じ時間にペンシルヴェニア州フィラデルフィアで有権者の質問に答え、米ABCニュースがこれを中継した。トランプ氏はマスク着用の是非や陰謀論などについて、司会者と激しく舌戦を展開。バイデン氏は新型コロナウイルス対策や税制、エネルギー対策、性的少数者の権利などについて、有権者や司会者の質問に穏やかに答えた。バイデン氏は、放送時間が終わっても参加者と対話を続けていた。

トランプ氏はサヴァナ・ガスリー司会者に、「QAnon(Qアノン)」と呼ばれるトランプ氏支持のオンライン陰謀論について、その内容を否定するか質問され、自分は何も知らないと答えた。

バイデン氏は、もし自分が当選したら連邦最高裁判事の定数を増やし、リベラルな判事を複数指名するのか質問され、明確に回答しなかった。

「Qアノン」の中心にあるのは根拠のない陰謀論で、「政財界とマスコミにエリートとして巣くう、悪魔崇拝の小児性加害者たちに対して、トランプ大統領は秘密の戦争を繰り広げている」というのが主要テーマ。この陰謀論をさまざまな形で吹聴する「信者」たちは、「トランプvs悪のエリート」という構造のこの戦いの結果、いずれヒラリー・クリントン氏など著名人が逮捕され処刑されることになると憶測を重ねている。

バイデン氏に対する最高裁判事の増員についての質問は、トランプ政権下で保守派判事が2人就任したことに加え、リベラル派の故ルース・ベイダー・ギンズバーグ判事の後任として保守派判事の指名・承認手続きが現在進行している事態を受けたもの。一部のリベラルや民主党支持者の間では、バイデン政権になったら現在の判事定員9人を増やして、保守・リベラルのバランスをリベラル有利に取り戻そうとする動きが出ている。

両候補はこの夜、米大統領候補討論会委員会(CPD)主催のタウンホール形式討論会に共に参加する予定だった。トランプ氏が新型コロナウイルスに感染したことを受け、CPDは遠隔のバーチャル形式で実施すると発表したが、トランプ氏がこれに反対。両候補が独自に集会を開くことにしたため、CPDは2回目の討論会の中止を発表した

この日の討論会を司会する予定だった記者は同日、トランプ氏からの批判をきっかけとしたツイートをめぐり、自分のアカウントをハッキングされたと虚偽申告したことを認め、休職処分を受けた

最後の大統領候補討論会は22日に予定されている。両候補ともこれには参加する意向を示しているが、バイデン氏は15日、トランプ氏が直前にウイルス検査を受けるよう求めると述べた。

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11月3日の投開票日へ向けて、すでに2000万人以上が期日前投票を済ませている。全国的な世論調査ではバイデン氏がリードを維持しているが、アメリカの大統領選では全国的な支持率よりも個別の激戦州の勝敗が大統領を決めることが多い。



Qアノンについてトランプ氏は

NBC司会者のガスリー氏に、自分を支持する「Qアノン」を否定するかと尋ねられると、トランプ氏は「Qアノンについて自分は何も知らない」と答えた。

トランプ氏は8月18日の定例記者会見で「Qアノン」について意見を求められ、「この国を愛する人たちだと聞いた」、「おそらく僕のことが好きらしいというほかは、実際は何も知らないんだ」と答えていた。

ガスリー氏は質問に先立ちQアノンがどういう主張か説明したばかりだと問いただすと、トランプ氏は「君は説明したが、君が説明したからといって必ずしも事実とは限らない。こんなことを言うのは残念だが」と返した。

「私は(Qアノンについて)何も知らないが、小児性愛に強く反対していて、そのために猛烈に闘っているのは知っている」と、トランプ氏はさらに述べた。

トランプ氏はQアノンを否定する代わりに、「アンティファ」をしきりに攻撃した。「アンティファ」とは「反ファシズム」を掲げる、極左活動家を中心とした緩やかな結びつきの運動で、トランプ政権下の司法省はアメリカ各地でここ数カ月続く騒乱の責任は「アンティファ」にあるとしている。

トランプ氏は「それより自分が言っていることについて話そう。自分はアンティファと極左についてなら知っている。連中がどれだけ暴力的で残酷か。連中は、民主党が統治する都市を次々に燃やし尽くしている」と続けた。

2人の応酬は続き、ガスリー氏が「(Qアノンについて)知っているじゃないですか」と反論すると、トランプ氏は「知らない」と返した。

ガスリー氏はさらに、バラク・オバマ政権下で米海軍特殊部隊が過激派勢力アルカイダの指導者オサマ・ビン・ラディン容疑者をパキスタンで殺害したというのはでっちあげだとする陰謀論ツイートを、トランプ氏がリツイートしたことに言及。多くの共和党支持者や、作戦に参加した元兵士にも批判されたこのリツイートについて、なぜそんなことをしたのかと質問した。トランプ氏は「あれはただのリツイートだ。それを見た人が各自で判断すればいい」と反論した。

するとガスリー氏は、「あなたは大統領です。何でもかんでも好き勝手にリツイートしていい、誰かの頭のおかしいおじさんじゃないんですよ」と返した。

トランプ氏が「米疾病対策センター(CDC)はマスクを着ける人の85%が感染すると言っている」と述べると、ガスリー氏は「その報告の中身を知っていますが、そういう意味ではありません」と否定。トランプ氏は「自分はそう聞いた」と返した。CDCは同日、マスク着用が感染につながるという内容の報告ではないとツイートした。CDC報告は、たとえマスクを使用していても外食などで外した場合の感染リスクを指摘したものだった。

9月末に対面で行われた大統領候補討論会の日にウイルス検査を受けたのかと聞かれると、トランプ氏は「受けたかもしれないし、受けてないかもしれない」とはぐらかした。

もし負けた場合も選挙結果を受け入れ、平和的な権限移譲に応じるのかという質問には、トランプ氏は初めて応じると答えた。これまでは、自分が負けるとすればそれは不正選挙だからだとして、平和的に権限を移譲するか言明していなかった。この日のトランプ氏は初めて、「応じるかと聞かれれば、答えは『イエス』だ。そうする。ただし、正直な選挙であって欲しいし、誰もがそうだ」と述べた。その上で、「自分の名前が書かれた投票用紙が何千枚もゴミ箱に捨てられているのを見ると、嬉しくない」と、不正投票の懸念を繰り返した。

連邦選挙管理委員会は、広範な不正投票が起きていると示す証拠はないとしている。ニューヨーク大学ロースクール・ブレナン正義センターの2017年の調査では、アメリカの選挙全般における不正投票の割合は0.00004%から0.0009%という。

最高裁の増員についてバイデン氏は

ABCニュースが中継した対話集会では有権者がバイデン氏に、連邦最高裁の判事増員を指示するのか質問した。定員9人の最高裁は現在、1人欠員で5対3で保守派が優勢。上院司法委員会が現在、指名承認公聴会を開いている保守派のエイミー・コーニー・バレット判事が就任すれば、6対3で保守派が圧倒的に優勢となる。最高裁判事の任期は終身。

このためリベラルの間では、バイデン政権になった場合に判事の定数を増やし、リベラル派の判事を増やすという案が取りざたされている。

判事増員を支持するかという質問に、バイデン氏はこのところ、確答を避けている。このため保守派は、バイデン氏が三権のひとつの司法の構成に介入するつもりだと強く反発している。

この夜のバイデン氏はまず、「自分は判事増員のファンではない」と答えた。

司会したジョージ・ステファノポロス氏がさらに、もしも共和党が多数を占める上院がこのままバレット判事を承認した場合、定数を増やすつもりはないか問いただすと、「その先どうなるか検討することはあり得る」と答えた。

ステファノポロス氏はこの件についてバイデン氏の考えを有権者は知る権利があると思うか、さらに質問。するとバイデン氏は、「(有権者は)私の意見を知る権利があるし、投票するまでに知る権利がある」、「今の事態がどうなるかによっては」と答えた。これは、バレット判事の就任がそれまでに決まった場合を意味すると思われる。

トランプ氏が重要テーマにしている「法と秩序」については、「警官が増えると犯罪が減ると思うか」と司会者が質問。

バイデン氏は、「地域の防犯活動に取り組むなら、そう思う」と答えた。

さらに、警官が攻撃された場合は、事態の沈静化を優先するべきだとして、「つまり、誰かが自分に向かってくる状況で、すぐさま相手を射殺するつもりで発砲するのではなく、相手の脚を狙って撃つべきだ」とバイデン氏は述べた。

新型ウイルス対策については、ワクチンの接種が広く可能になった場合、その接種を義務化するかと質問されると、バイデン氏は「どういうワクチンで、いつ使えるようになり、どうやって配布されるかによる」と確答を避けた。

(英語記事 US election: Trump declines to disavow QAnon conspiracy theory