上西小百合(前衆院議員)

 日本全国が新型コロナウイルス禍による景気低迷やその混乱に頭を抱え、各自治体職員が市民の支援策の対応に忙殺される中、大阪市では少し違う様相を見せている。

 今、大阪市でとりわけ注目されているのは新型コロナへの対応ではなく、「大阪都構想」の住民投票なのだ。大阪市では、日々街頭や説明会の会場などで各党の賛成派議員や反対派議員に加え、それぞれの支持者が11月1日の投開票日に向けしのぎを削っている。

 しかし、大阪府全体ではコロナ対策によって特筆すべき成果が得られているわけでもなく、他県同様に新規感染者も連日報告されている。

 吉村洋文知事が矢継ぎ早に繰り出したコロナ対策の一つであった「新型コロナウイルスの予防ワクチンの9月実用化」が実現していればよかったのだが、これは彼が自らを「ヒーロー」とするべく、とりあえず言ってみただけであるし、もちろんそんな絵空事は実現されるわけもない。

 ただ、この対策は大阪府民が大変な期待を寄せた部分でもあるので、ここは吉村知事も知らん顔せずに状況説明をしていただきたいところではある。何せ住民投票に向けて各議員らの活動期間中に、都構想を主導する地域政党「大阪維新の会」(国政政党は日本維新の会)所属の府議会議員2人が新型コロナに感染しているのだ。
会見する、大阪維新の会代表の橋下徹大阪市長=5月17日午後11時17分、大阪市北区のリーガロイヤルホテル大阪(門井聡撮影)
会見する大阪維新の会代表の橋下徹大阪市長=2015年5月
大阪市北区(門井聡撮影)

 これに関しての詳細は維新からいまだ何の説明もないので、個人的にはやじ馬精神がむくむくと湧いてきてしまう。住民投票の活動下での感染か、懇親会という名の「クラブ活動」の下での感染なのかは非常に興味がある。

 賛成派も反対派も一応それなりの感染予防対策はしていると思うが、演説を聞く人々への飛沫(ひまつ)感染などが生じないものかと一抹の不安を覚えている。

 また、何よりも気の毒なのは大阪市の職員だ。前述したように、コロナ禍における業務で目が回るほどの忙しさの中、松井一郎大阪市長の思い付きで始まった雨がっぱの収集と配布といった関連業務に加え、住民投票実施に関する業務まで増えるのだ。自分たちの職員には「ロクな仕事もせずに税金から高い給料をもらっている」と悪のレッテル張りをし人気取りをした維新のために、現場の職員が疲弊しているのは何ともやるせない。

 この混乱期に、わざわざ住民投票をしなければならない理由は何なのであろうか。私が思うに住民投票を開催する理由はただ一つ、「維新の都合」のみである。前回(2015年5月)の住民投票では、当時党の象徴であった橋下徹前市長が「(大阪都構想の住民投票は)何度もやるようなものではない。1回限りだ」と決意を示した上で大阪都構想への賛同を市民に訴えたが、あえなくその決意と都構想は撃沈した。

 つまり、よほど維新がノリに乗りまくっているタイミングでないと、大阪都構想は絶対に実現不可能なのだ。というのも、今の日本の主権者教育(政治教育)レベルでは「大阪都構想の中身をどう思うか?」ではなく、「維新が好き?嫌い?」という投票にすぎないからだ。

 都構想実現は、コロナ禍でマスコミを集めてはとっぴなことを言って注目を浴び、ヒーローとなった吉村知事の人気が残っている今しかない。ましてや新型コロナの終息を待って行う住民投票実施など、維新からすればあり得ないだろう。維新としては住民投票で成功を収め、その勢いで衆院選での議席増につなげたいはずだ。