2020年10月18日 12:58 公開

パリ近郊で学校の教師が首を切断されて殺害された事件で、捜査当局によると容疑者は学校前で待ち伏せ、自分が探している教師がどれか教えるよう生徒たちに話しかけていたという。

事件は16日午後5時ごろ、パリ近郊コンフラン=サントノリーヌの学校、コレージュ・デュ・ボワ・ドルヌの近くで起きた。男が教師、サミュエル・パティさん(47)を殺害し、その遺体の写真などをソーシャルメディアに投稿した。かけつけた警官たちにエアガンで発砲し、警官たちに射殺された。

パティさんは授業で、2015年1月の週刊誌社屋襲撃事件につながったイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を生徒たちに見せており、イスラム教徒の生徒の保護者から抗議の声が上がっていた。

対テロ検察官のジャン=フランソワ・リカール氏は、容疑者の氏名を「アブドゥラフ・A」とのみ発表。モスクワで生まれたチェチェン系の18歳で、子供の頃に難民としてフランスに移住した。対テロ警察は、容疑者をこれまで把握していなかったという。

事件現場から約100キロ離れたノルマンディーのエヴルー在住で、殺害された教師や学校とは関係がなかったもよう。

訴追歴は軽犯罪についてのみだった。

事件当日の午後に学校へ向かい、生徒たちにどの人がパティ教師か教えるよう話しかけたという。

授業が終わり徒歩で帰宅するパティ教師を追いかけ、刃物で頭に複数のけがを負わせた後、首を切り落としたとされる。

複数の目撃者が、「アッラーフ・アクバル(神は偉大なり)」という叫び声を聞いたという。

男はその後、教師の写真をツイッターに投稿し、エマニュエル・マクロン仏大統領やフランスの「異教徒」、「犬」などを罵倒する内容を書き込んだとされる。

駆けつけた警官たちにエアガンで複数回発砲したため、警官が銃撃した。いったん立ち上がった男に、警官はあらためて発砲し、射殺した。男は計9発、撃たれたという。男の遺体の近くでは、刃渡り30センチの刃物が発見されたという。

警察はテロ事件として捜査に着手。イスラム過激主義との結びつきを追及しており、17日には10人を逮捕した。

マクロン大統領は事件後、事件は「イスラミスト(イスラム原理主義者)によるテロ攻撃だ」と批判。被害者は「表現の自由を教えた」ことが理由で殺害されたと述べた。

21日にはパティ教師への全国的な追悼が予定されている。

風刺画を教材に使い脅迫され

リカール検事によると、歴史と地理を教えるパティ教師は週刊誌シャルリ・エブド襲撃事件について教える教材として、事件のきっかけになった預言者ムハンマドの風刺画を授業で生徒たちに示した。シャルリ・エブド事件については現在、共犯に対する公判が行われている

パティ教師はイスラム教徒の生徒たちには、風刺画を見ると不愉快になりそうなら、顔を背けたほうがいいと勧めていた。

これについて生徒1人の保護者が強く反発し、パティ教師がムハンマドの裸体像を生徒たちに見せたと非難した。この父親は学校に正式に抗議すると共に、パティ教師を非難するビデオを複数製作し、学校に抗議に行くよう広く呼びかけていた。

リカール検事によると、この父親も逮捕された1人。この男性の妹は2014年にシリアで過激派勢力「イスラム国」(IS)に参加していると補足した。

逮捕者10人のうち、少なくとも4人は容疑者の親族。少なくとも1人は以前から対テロ警察が把握していたという。

リカール検事は、シャルリ・エブド裁判が始まって以来、関連する攻撃は2件目だと指摘。9月下旬にはシャルリ・エブド本社だった建物の外で2人が襲撃され、重傷を負っている。

「フランス国内でテロ攻撃が起きる脅威は、引き続ききわめて高い」と検事は述べた。

フランス国内の反応は

人望のあった教師が残酷に殺害され、生徒たちは衝撃を受けているという。保護者の1人はツイッターに自分の娘が「激しく動揺している。あまりに暴力的なひどい行為に、恐れおののいている。想像を絶するような事態を、自分は娘にどう説明したらいいのだろう」と書いた。

パティ教師に教わったことがあるというマルティアルさん(16)は、パティさんが教師の仕事を愛していたと話した。「本当に自分たちに色々なことを教えようとしていた。時には議論したこともある」という。

仏大統領府は、パティ教師を追悼する全国行事の実施を発表。「#JeSuisSamuel(ジュ・スイ・サミュエル、私はサミュエル)」というハッシュタグがソーシャルメディアで広く拡散している。これは、シャルリ・エブド事件の際に大勢が支援と連帯を示して使った「#JeSuisCharlie(私はシャルリ)」のハッシュタグに呼応するもの。

事件発生から数時間後に現場を視察したマクロン大統領は、「(過激派は)決して勝たない。決して我々は分断しない」と述べ、国の一致団結を訴えた。

週刊誌シャルリ・エブドは事件後、「不寛容が新しい一線に達した。フランスに恐怖を与えようとする行為は、とどまるところを知らないようだ」とツイートした。

教員労組の幹部と17日に面会したジャン=ミシェル・ブランケール教育相は声明で、パティ教師が「自由の敵」に殺害されたと批判し、フランスは「テロや威圧に直面しても決して屈しない」と述べた。

フランス国内のイスラム教指導者たちも事件を強く非難。ボルドー市にあるモスク(イスラム教寺院)の指導者、タレク・ウブルー師は公共ラジオのフランス・インテルに対して、「罪のない人を殺すのは文明ではない。それは野蛮のすることだ」と話した。

ストラスブール拠点の欧州チェチェン人会議は、「すべてのフランス人と同じように、私たちもこの事件に戦慄(せんりつ)している」とコメントを発表した。

(英語記事 France teacher attack: Suspect 'asked pupils to point Samuel Paty out'