杉山崇(神奈川大人間科学部教授)
麻生マリ子(家族心理ジャーナリスト)

司会・対談構成:梅田勝司(フリーライター、編集者、「PressRoom.jp」記者)

 働くほど豊かになれるとされた高度経済成長期、多くの日本人が家計に不安のない暮らしを手に入れた。しかし、規制緩和で外資系企業が国内に入り込み、企業は製造拠点を海外に求めるようになり、非正規雇用が当たり前のものになると、収入格差が国民を二分化させ始めた。

 日本を代表するメーカーであるトヨタが9月30日、昇給ゼロもあり得る「成果主義的昇給制度」を来年導入する方針を示したように、時代は確実に変わり始めている。

 また、外国人労働者が急増し、少子高齢化に伴う労働力の減少をカバーしている。労働をめぐる環境が大きな変化を迎えている今、改めて国力とは何かを考える。

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梅田 「一億総中流」は高度経済成長期のキャッチフレーズですが、今となっては本当にそんな時代があったのか、と疑わしく思えるようになってしまいました。

杉山 本当にそうですね。当時は、国内産業を保護する規制をかけることで、国家が企業を守っていました。そして、企業は従業員とその家族を守る役目を担いました。結果的に、ほぼすべての国民の生活を守ることができた時代ですから、大成功ですね。

 ところが、今はグローバル化で国家が企業を守ることができなくなりました。規制をどんどん外して「グローバルなマーケットで戦ってください」となっています。

 国家が企業を守らないのに、企業が従業員と家族の暮らしを守り続けるのはどうなんだ、というところから日本型雇用の見直しを求める声が経団連から出たりしますし、トヨタの豊田章男社長も「終身雇用を守っていくのは難しい」というメッセージを出したりするわけです。

 経営者の本音としては、人件費という固定費を減らしたい。社会保険や交通費、住宅手当なども考えると、実質給料の2倍くらいになりますから。

 そこで正社員になって生活を守られている人と、非正規雇用で生活を守られていない人たちとの格差が、これから先、社会不安につながらないか懸念されます。

麻生 現行の労働者派遣法では、同一事業所の同一部署へ、同じ労働者を派遣できる期間は最長3年です。3年を超えて派遣される見込みの労働者の雇用安定措置として、労使合意のもと、派遣事業者や派遣先企業は直接雇用などの措置を講じます。しかし、実際のところ、その目前で切られてしまうことが起きています。いわゆる雇い止めです。

梅田 大企業では、同じ仕事であれば雇用形態を問わず同じ賃金を支払う「同一労働同一賃金」が定められていますが、守られているのでしょうか?

杉山 正社員には責任が伴うという理由で、差をつけています。企業の側としても、派遣社員はずっと勤めてもらう前提ではありませんからね。しかし、正社員はスキルがたまっていきます。正社員の一人一人が蓄積した経験値も、企業の財産なんです。だから財産のプールである正社員を厚遇したいわけで、責任が違うから賃金に差をつけることが、実際続いているようですね。
高度経済成長期の真っただ中に行われた東京五輪=1964年10月10日、国立競技場
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梅田 長期雇用の派遣社員でも価値は認められないのでしょうか? 先日、郵便局員の契約社員の待遇をめぐる裁判では、一部の手当や処遇は認められましたが。

杉山 経験値を下の世代に伝えていくのは正社員の役割だと思いますが、そういうことを派遣社員にさせている企業もあるでしょう。とはいえ、派遣社員には人手が足りないときに助けてもらう人材という前提があるので、その経験値を会社の財産と考えている企業がどれほどあるのかは分かりません。