山田吉彦(東海大教授、国家基本問題研究所理事)


 今月11日、中国海警局の警備船2隻が尖閣諸島大正島周辺の日本領海内に侵入した。この警備船は再三にわたる海上保安庁の退去要請を無視し、57時間39分にわたって領海内に滞在した。

 これは「尖閣諸島は中国領土である」と主張する、中国共産党の実力行使だ。こうした中国による日本の主権を守るためには、このような独善的な行動に早期に歯止めをかける必要がある。まさに、菅義偉(すが・よしひで)新内閣の政治的、外交的技量が最初に試される大きな局面であろう。

 あまり知られていないが、実は今夏、尖閣諸島は危機的な状態にあった。常時、中国海警局の警備船が排他的経済水域(EEZ)内に滞在し、領海に侵入するチャンスをうかがっていたからだ。ひとたび侵入するとその滞在時間は長く、7月には39時間23分にわたり、中国の警備船がわが国の領海内に居座った。さらには尖閣諸島周辺で操業する八重山諸島の小型漁船を追跡し、排除するような動きも見せた。

 中国の狙いは、尖閣諸島が日本の施政下にあることを否定することにある。日本が国防の柱としている日米安全保障条約の対象地域は、あくまで「日本の施政下の」地域に限定されている。だからこそ中国は、尖閣諸島における日本の施政を否定するため、日本の警備体制を上回る規模の警備船団を派遣し、そして、中国の国内法に基づき漁船を取り締まるそぶりを見せているのだ。

 中国の警備船は3千~5千トンクラスが中心であり、日本の海上保安庁の尖閣専従部隊が主力とする1千トン級をはるかに超える能力を持っている。見方によっては、中国側の方が優位に尖閣諸島に対処していると捉えることもできるだろう。中国当局は、このような尖閣諸島周辺での中国海警局の活動している様子を中国中央電視台(CCTV)の国際テレビ放送を通して世界中に配信している。

 それを見た世界の人々は、日本は尖閣諸島を実効支配していないと感じ、むしろ、中国の領土であると誤解することもあるだろう。それこそが中国の狙いである。
 
 2010年以来、中国は充分な時間をかけて尖閣諸島に侵出してきた。この年、中国漁船が尖閣諸島警備の任務に就いていた海上保安庁の巡視船2隻に対し、体当たりする事件が起きた。そしてこの事件に対する日本政府の弱腰な対応を見るやいなや、一気に攻勢に出たのである。

 なぜなら当時の民主党政権は明らかな犯罪者であるこの中国漁船の船長を、処分保留で帰国させてしまった。まさにこの行為こそ、尖閣諸島における日本の施政権を否定する愚行であった。さらに近年この対処策は、当時の菅(かん)直人総理が指示していたことを複数の元民主党議員が証言し、明らかになってきている。

 菅直人元総理は横浜で開催予定だったアジア太平洋経済協力会議(APEC)など目先の外交イベントに目を奪われ、中国に過度な配慮をすることで、付け入る隙を与え、日本の主権を脅かしてしまった。その後の野田佳彦政権では、具体的な方策も持たないまま、尖閣諸島の魚釣島、南小島、北小島の三島を民間から買い上げ、国有化に踏み切った。
衆院予算委員会で挙手する菅直人首相(当時)=2010年9月、国会・衆院第一委員室(酒巻俊介撮影)
衆院予算委員会で挙手する菅直人首相(当時)=2010年9月、国会・衆院第一委員室(酒巻俊介撮影)
 そして民主党政権の残した禍根は、7年8カ月の安倍晋三内閣でも払拭(ふっしょく)することはできなかった。現在も同諸島は無人島のまま、小型の灯台の維持管理以外は上陸もできず、国際的な視点からすると実効支配していると主張できるか疑問である。
 
 ただ、今年の8月15日、東シナ海における漁業の解禁日に合わせ、中国の1万隻近い漁船団が東シナ海への出漁の指示を待っていたが、結果的には中国漁船の大規模な出漁は行われなかった。