2020年11月01日 12:54 公開

ローラ・クンスバーグ、BBC政治編集長

核兵器。惨事。災害。そういう表現を彼は使ってきた。しかし、まさにそれを実行に移したのだ。

ボリス・ジョンソン英首相は、自分はイングランド閉鎖の指示などしたくないのだと、これ以上ないほどはっきり繰り返していた。

そして10月31日の夜には、イングランドの「ロックダウン2.0」は最初の時に比べればまったく厳しくないと、しきりに強調していた。

それでも首相はまたしても、首相官邸の演台から、国民に「自宅にいて、NHS(英国民健康サービス)を守り、命を守る」よう呼びかけた。

そしてまたしても、政府がここで厳しい対策をとらなければ、医療機関は手当てを必要とする患者を追い返さなくてはならなくなると警告した。

さらにまたしても、首相と政府の科学顧問たちは、パンデミックによって国の死者数が耐え難いほど急増する恐れがあると、資料を提示した。ここ8カ月間で私たちの生活をひっくりかえしてしまったパンデミックが、あらためて来襲しているので。

ハロウィーンの夜のゴールデンタイムだったが、首相のテレビ会見が急きょ差し込まれ、数時間の遅れを経て実現した。政治手法としては常套手段だ。事実関係が変わったなら、コース変更すべきなのだし。

確かに、政府が31日の夜に示したデータは、事態の悪化を予想していた。


パンデミックの状況が悪化しているのはイギリスだけではなく、フランスやドイツもここ数日で厳しい行動制限を再開した。

とはいえ、こうなる危険性をジョンソン首相が知らされていなかったわけはまったくない。

6週間ほど前には野党だけでなく、一部の閣僚や首相顧問さえ、感染拡大を食い止めるために限定的なロックダウンが必要だと強く求めていたのだ。

今後の感染状況がもしかすると今春よりもひどいものになりかねないと懸念される中、9月の第3週ともなると政府内では、パンデミックの第2波を受けて全国的な対応の可能性をしきりに検討していた。

首相はこの時点で、むしろ地域別のロックダウン制度を支持した。そうすれば、ようやく息を吹き返し始めた脆弱(ぜいじゃく)な経済全体を叩きのめさず、感染拡大を制御できるかもしれないと期待してのことだった。

首相は当時、財務省や、経済を守れと声高に力説する多くの保守党議員の側に立つことを選んだ。

地域の感染状況に応じた制限の仕組みが、なんとか開始されると、国内各地の自治体首脳と政府の対立が相次いだ。そして、もっと厳しいロックダウンを短期的に、いわゆる「サーキットブレーカー」として限定的に実施する是非をめぐり、議論が続いた。

政府内ではこうした議論が続いていたものの、 閣僚は連日、導入した地域ごとの「ティア・システム」がうまくいくと強調し続けた。

対策の決定は決して簡単なことではなかった。今回のような厳しい行動制限が引き起こす経済などへの打撃を制限しようとするのも、理にかなったことだったからだ。

しかし、ジョンソン首相の当時の判断は今では、避けがたい政治的な事故を先送りしただけのように見える。

「ロックダウン2.0」は最初のロックダウンとそっくり同じではない。学校や大学が授業を続けるなど、大きく異なる部分もある。1カ月限定と最初から決まっているのもそうだ。何より、ウイルス検査の規模と速度を一気に改善することで、ウイルスと共に生きる暮らしが以前よりは楽になるかもしれないのが、春のロックダウンとは大きく違う。

イギリス国内の場所によって状況も異なる。

すでにイングランドより厳しい制限を実施していたスコットランドは、地域の感染状況ごとの段階的な対策を当面続ける方針だ。北アイルランドとウェールズもすでに、2度目のロックダウンを限定的に開始しており、ロックダウン解除計画もすでにまとめてある。

しかし、以前とよく似ている感じもする。ここまで決断を待った首相はまたしても、春先と同じように、避けがたい決断を先送りしただけだという批判を受けることになった。首相の判断のタイミングは、人命を損なうことになりかねないし、おそらくジョンソン政権そのものの評判も損なうことになるだろう。

(英語記事 Coronavirus: Boris Johnson launches the nuclear option he swore to avoid